第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

……そのとき。

「……こほん」

わざとらしい咳払いが、静寂を破った。

視線を向けると、ユウリは困ったように口元を押さえ、アリスは露骨に目を逸らしている。

……あら。
完全に、見られてたわね。

その空気をさらに切り裂くように、低く冷えた声が響いた。

「――何をしている」

振り向いた瞬間、そこに立っていたのはディランだった。

「……ディ、ディラン」

ティアナちゃんがはっとして声を上げる。

彼の視線が、私の手と、赤く染まったティアナちゃんの頬を捉えた。

一瞬で、空気が凍りつく。

「随分と……距離が近いようだな」

笑っていない。
むしろ、笑っていないことを強調するような声音。

……ああ。
これは、完全に地雷を踏んだわ。

私は肩をすくめ、わざと余裕の笑みを浮かべる。

「誤解しないでちょうだい、殿下」

ちらりとティアナちゃんを見る。

「可愛がってただけよ」

――火に油。

ユウリは深いため息をつき、アリスは視線を逸らし、ティアナちゃんは真っ赤になって固まっている。

ディランのこめかみが、ぴくりと動いた。
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