第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「これ、アラン殿下に頼んで譲ってもらったの」

そう言って、チョーカーを指で弾く。

その瞬間、ふと記憶がよみがえった。

――以前、蝶の会に潜入したとき。

ディランはサーフェスになりすましていた。
顔だけじゃない。
声まで、完全に別人だった。

(あのときも、同じ違和感を覚えた)

あれは魔法というより……
**精密すぎる“調整”**だった。

交換条件と称して聞いてみたら、案の定だった。

知識も、人脈も、手段も持っている人。
そういう人にしか扱えない代物。

『ああ、それね』

軽い口調で、でもどこか意味深に笑って。

『声帯に干渉する魔宝石だ。本来は諜報用で、一般には出回らない』

『君が使うなら、問題ないだろう』

……まるで貸し出す本の話でもするみたいに、さらっと。

(ほんと、ディランもすごいけど……アラン殿下も規格外)

「なるほど……」

セナが納得したように息を吐く。

「アラン殿下が絡んでるなら、確かに性能は保証付きですね」

「でしょ?」

私はにっと笑う。

「だから今回は――」

チョーカーに触れながら、低く宣言する。

「完璧に“男”でいく」

その言葉に、一同が静かに頷いた。

危険なのは、誰より分かっている。

相手は――
王国のトップ。

でも。

(見過ごせるわけ、ないでしょ)
< 52 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop