第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「式典当日の話だ」

ディランは、わずかに姿勢を正した。
その仕草だけで、空気が引き締まる。

「パーティーでは――君と、踊る」

「……」

胸が一瞬、止まる。

「公式の場だ。
 王子として、そして婚約者として」

視線が逸れない。
まっすぐで、揺るぎない。

「誰の目にも、君が俺の隣だと分かるように」

胸の奥が、静かに熱を帯びる。

「……注目、集まりますよ?」

「望むところだ」

迷いのない即答。

「そのあとだ」

声が、わずかに低くなる。

「曲が終わり、拍手が起きたその隙に――君は姿を消せ」

「はい」

「俺は陛下の目があって、公には動けない。
 だが俺が引き留める。
 警備も、視線も、全部こちらに集める」

頭の中で、動線が自然と組み上がっていく。

「……その間に、地下へ」

「そうだ」

短く、力強く頷く。

「危険な役回りだ。
 それでもやるか?」

その問いは、試すためじゃない。
ただ、私の覚悟を確かめるためのもの。

私は迷わず答えた。

「やります」

ディランは、ふっと息を吐いて笑った。

「やはり、君だな」

そして、ほんの少しだけ距離を詰めて。

「約束だ」

「パーティーでは、俺の手を取れ」

「そして――」

声が落ちる。
触れたら壊れそうなほど、静かに。

「必ず、生きて戻れ」

「……はい」

その返事に、ディランの目がわずかに柔らかくなる。

「終わったら」

一瞬、感情が滲む。

「また、踊ろう」

任務のためのダンス。
そして、生き延びた証のダンス。

その約束が、胸の奥に深く刻まれた。

――この人となら。
どんな未来でも、きっと戦っていける。
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