今日、愛する妻が死にました。
4.友人
「.....こんにちは。今日は、突然すみません」
翌日。圭吾は、地元の喫茶店で二人の女性と対面していた。
のぞみの学生の頃からの友人、寺本花梨(てらもとかりん)と都築糸佳(つづきいとか)だ。
二人とも、のぞみと同じく大学で上京したが、就職する時二人は地元に戻っていた。
離れた距離にいても、のぞみと花梨、糸佳の三人は仲が良く、頻繁にグループ通話やメッセージのやりとりをしていた。
そんな二人なら、何か知っているかもしれない、と今回の帰省のもうひとつの目的のため、圭吾は連絡をとっていた。
「いえ、この度は、本当になんと言っていいか....。お悔やみ申し上げます。.....私たちもまだ、あの子が笑って帰ってくる気がして、信じられないんです」
花梨が言えば、糸佳も頷く。
「.....あり、がとうございます」
「.........」
しばらく沈黙が訪れたあと、圭吾はゆっくり口を開いた。
「あの....このハンカチ......のぞみが大切にしていたものみたいなんです。.....なにか聞いてませんか?」
机にハンカチをそっと置くと、二人は視線をそれに滑らせた。
だが、首を傾げただけで、お互い顔を見合わせてしまう。
「そうですか....。......のぞみ、生前何か気になることはありませんでしたか?.....どんな些細なことでもいいんです。変わった様子だっとか、こんなことを言っていた、とか」
二人は、何故圭吾がそんなことを尋ねてくるのか、訳がわからなかったのだろう。
少し訝しげな顔をしながらも、顎に手を当てて考えこみ始めた。
と、糸佳がおずおずと小さく手を上げて、喋り始める。
「......あ、の。変わった様子があったか、と言われても....私たち、わからないんです」
「.....え?」
今度は、圭吾が彼女の言っている意味がわからず怪訝な顔をする。
そして、花梨と糸佳は再び顔を見合わせる。
次に口を開くのは、花梨だった。
「......実は.....しばらくのぞみとは疎遠になっていたんです」
ね、と二人で頷き合ってまた圭吾を振り返る。
「理由はわからないんです....本当に、身に覚えがなくて。でも....いつの頃だったか、メッセージを送っても、電話をかけても無視されるようになってしまって。私だけでなく、花梨もそうだって聞いて.....なんだか二人で腹が立ってきたんです。......それから、こちらからアクションを起こすことがなくなってしまった、というか」
言いにくそうに、ポツポツと言った糸佳は、悲しげに顔を俯ける。
「でも.....もしかしたら、その頃彼女の中で何かあったのかなって.....後から考えたら、どうしてあの時のぞみときちんと向き合わなかったのかって....ね。こうなってから後悔しても遅い....のに。......私たち、のぞみが病気で苦しんでる時に、知らずに過ごしてたなんて.....」
うん、と同意した花梨も俯いて黙ってしまった。
ぐすっと鼻を鳴らす音がする。
「.......そう、ですか」
圭吾は、そんな話をのぞみから聞いたことなどなかった。
まさか、仲の良かった二人と疎遠になっていたなんて。
ハンカチを受け取った日から、自分の知らない妻の顔がちらちら見え隠れして。
正体不明の気味悪さを覚える自分に、圭吾はまた塞ぎ込んでいったーーー。
*****
「......い!.....ご!......おいってば!圭吾!?」
圭吾はボーっと考え込んでいて、自分を呼ぶ声が聞こえていなかった。
力強く肩を掴まれ、ハッと振り返る。
「あ.....天堂?」
「やっと気づいた!はは、どうしたんだよ、幽霊みたいな顔しちゃって。こっち帰ってきてたのか?」
そこには、中学時代の同級生、天堂優(てんどうすぐる)が立っていた。
天堂とは、同じ野球部で、学生時代は仲良くしていた。
高校や大学が離れて会わなくなっても、会えば軽口を叩ける気安い関係だ。
そういえば.....こいつには結婚式にも来てもらってたっけ。多分、のぞみのことは知らないんだよな.....。
「あ.....いや、ちょっと色々あって。しばらく実家に帰省してるんだ」
「.......ふぅーん。.....お前、もう家帰るとこ?」
「いや....なんか考え事してたらここに来てて」
「.....なぁ、これから呑まない?」
「......は?」
「いいじゃん!せっかく久しぶりに会えたんだしよ?お前、結婚してからますますこっちに戻って来なくなったから。たまに帰省する時くらいしか会えなかっただろ!な、付き合え!」
そうして、ガッと肩を組まれて断れなくなった圭吾は、天堂とともに居酒屋に向かった。
翌日。圭吾は、地元の喫茶店で二人の女性と対面していた。
のぞみの学生の頃からの友人、寺本花梨(てらもとかりん)と都築糸佳(つづきいとか)だ。
二人とも、のぞみと同じく大学で上京したが、就職する時二人は地元に戻っていた。
離れた距離にいても、のぞみと花梨、糸佳の三人は仲が良く、頻繁にグループ通話やメッセージのやりとりをしていた。
そんな二人なら、何か知っているかもしれない、と今回の帰省のもうひとつの目的のため、圭吾は連絡をとっていた。
「いえ、この度は、本当になんと言っていいか....。お悔やみ申し上げます。.....私たちもまだ、あの子が笑って帰ってくる気がして、信じられないんです」
花梨が言えば、糸佳も頷く。
「.....あり、がとうございます」
「.........」
しばらく沈黙が訪れたあと、圭吾はゆっくり口を開いた。
「あの....このハンカチ......のぞみが大切にしていたものみたいなんです。.....なにか聞いてませんか?」
机にハンカチをそっと置くと、二人は視線をそれに滑らせた。
だが、首を傾げただけで、お互い顔を見合わせてしまう。
「そうですか....。......のぞみ、生前何か気になることはありませんでしたか?.....どんな些細なことでもいいんです。変わった様子だっとか、こんなことを言っていた、とか」
二人は、何故圭吾がそんなことを尋ねてくるのか、訳がわからなかったのだろう。
少し訝しげな顔をしながらも、顎に手を当てて考えこみ始めた。
と、糸佳がおずおずと小さく手を上げて、喋り始める。
「......あ、の。変わった様子があったか、と言われても....私たち、わからないんです」
「.....え?」
今度は、圭吾が彼女の言っている意味がわからず怪訝な顔をする。
そして、花梨と糸佳は再び顔を見合わせる。
次に口を開くのは、花梨だった。
「......実は.....しばらくのぞみとは疎遠になっていたんです」
ね、と二人で頷き合ってまた圭吾を振り返る。
「理由はわからないんです....本当に、身に覚えがなくて。でも....いつの頃だったか、メッセージを送っても、電話をかけても無視されるようになってしまって。私だけでなく、花梨もそうだって聞いて.....なんだか二人で腹が立ってきたんです。......それから、こちらからアクションを起こすことがなくなってしまった、というか」
言いにくそうに、ポツポツと言った糸佳は、悲しげに顔を俯ける。
「でも.....もしかしたら、その頃彼女の中で何かあったのかなって.....後から考えたら、どうしてあの時のぞみときちんと向き合わなかったのかって....ね。こうなってから後悔しても遅い....のに。......私たち、のぞみが病気で苦しんでる時に、知らずに過ごしてたなんて.....」
うん、と同意した花梨も俯いて黙ってしまった。
ぐすっと鼻を鳴らす音がする。
「.......そう、ですか」
圭吾は、そんな話をのぞみから聞いたことなどなかった。
まさか、仲の良かった二人と疎遠になっていたなんて。
ハンカチを受け取った日から、自分の知らない妻の顔がちらちら見え隠れして。
正体不明の気味悪さを覚える自分に、圭吾はまた塞ぎ込んでいったーーー。
*****
「......い!.....ご!......おいってば!圭吾!?」
圭吾はボーっと考え込んでいて、自分を呼ぶ声が聞こえていなかった。
力強く肩を掴まれ、ハッと振り返る。
「あ.....天堂?」
「やっと気づいた!はは、どうしたんだよ、幽霊みたいな顔しちゃって。こっち帰ってきてたのか?」
そこには、中学時代の同級生、天堂優(てんどうすぐる)が立っていた。
天堂とは、同じ野球部で、学生時代は仲良くしていた。
高校や大学が離れて会わなくなっても、会えば軽口を叩ける気安い関係だ。
そういえば.....こいつには結婚式にも来てもらってたっけ。多分、のぞみのことは知らないんだよな.....。
「あ.....いや、ちょっと色々あって。しばらく実家に帰省してるんだ」
「.......ふぅーん。.....お前、もう家帰るとこ?」
「いや....なんか考え事してたらここに来てて」
「.....なぁ、これから呑まない?」
「......は?」
「いいじゃん!せっかく久しぶりに会えたんだしよ?お前、結婚してからますますこっちに戻って来なくなったから。たまに帰省する時くらいしか会えなかっただろ!な、付き合え!」
そうして、ガッと肩を組まれて断れなくなった圭吾は、天堂とともに居酒屋に向かった。