今日、愛する妻が死にました。

5.記憶

「おじさーん!俺、ハイボール!お前は?」

「あー....ビール、もらうよ」

「ビールも一杯ね!」

 居酒屋の店長に早速注文して、天堂と圭吾はメニューを眺めつつ話した。
 お酒が到着すると、そのまま酒の肴を頼んで一息つく。

「.....で?一体、何があったんだよ」

「......え」

「え、じゃないよ。お前、明らかに様子が変っていうか。少し....やつれてないか?何かあったんじゃねぇの?」

 ぶっきらぼうだが、気遣いを感じる。
 天堂は、こういうやつだ。なんだかんだと、いつも優しい。

「あぁ.....ごめん、気を遣わせて。....実は、妻が亡くなったんだ」

「........え」

「驚くよな。本当は結婚式にも出てもらったし、天堂にも連絡した方が良かったんだけど....僕も参ってて。あんまり記憶ないんだよ」

「......いつ」

「二ヶ月前くらい」

「........」

 言葉が出ない様子だった。
 そこから、闘病のときの話しや、生前の思い出、のぞみとの出会いなど、あれやこれやと話した。

 天堂は相槌をうちつつ、真剣に聞いてくれていた。

「そっか.....なんか、俺、空気読まずに誘って悪かったな」

「いや....誘ってくれて良かった。正直、気が滅入ってたんだ」

「.....そうか」

 そして、お互い酔いが回ってきて、ふわふわとした頭で話し始めた頃ーーー。

「あー....のぞみちゃん、本当良い子だったよな。圭吾、幸せ者だなぁって思ってたよ。結婚式の時もデレデレしちゃってよ?」

「......はは、だな」

「....そういえば、妹さんは?のぞみちゃんの葬式、出られたのか?」

「......ん?妹、って誰の?」

 圭吾は、いい気分の頭でのんびり考える。
 誰かに、妹なんていただろうか。

「....へ?だから....あー.....のぞみちゃんの、妹さん?....でもそうか、不仲、なんだよな?....あぁわりぃ。また変なこと言っちまった。飲み過ぎかな」

「......のぞみの...妹?」

「......あぁ。あけみ、ちゃんだっけ?」

 全く知らない名前が、天堂の口から飛び出したことに驚いて.....すぐに思い直した。


「.......なぁ、天堂。お前、本当飲み過ぎだ。誰と勘違いしてんだよ」

「.....は?勘違いじゃねぇよ。結婚式にも出てただろ?」


 二人の間に、沈黙が落ちる。

 天堂は圭吾が冗談を言っていると思ったのか、そこまで深刻に捉えていない様子で再び口を開く。

「......最初驚いちまったよ。お前の友人席に知らない女の子が座ってるからさ。.....まぁ、お前の母親とも親しげに話してたし、多分幼馴染か何かなのかなって」


 ドク、ドク、ドク....。
 圭吾の心臓が、嫌な音を立て始める。


 
 天堂は、圭吾の様子など意にも介さず、ほろ酔い気分で続けた。


「そしたらさ....」

「........」


「.....のぞみちゃんの妹さんで、二度驚愕。だって、普通新婦の妹なら親族席だろ?何で新郎の友人席に?って。.....でも話してみたら、姉や家族と折り合いが悪くて.....気の毒に思ったお前が友人席にこっそりいれてくれた、とかなんとか言うからさ。.....まぁ、世の中色々あるよなって、思って。それ以上聞くのやめたんだよ」

「........」


「.....そういえば、あの子。途中から居なくなったんだよな。結局それから最後まで帰ってこなくて。お前らが、席を回ってきたときはすでにいなかったな。....のぞみちゃんと顔合わせにくかったのかな」


 今度こそ、圭吾は言葉が出なくなった。
 まだ、天堂は何やら話し続けていたが全く耳に入ってこない。

 僕は....そんな記憶なんてないーーー。

 圭吾のふわふわしていた頭は冷え切って、酔いはすっかり醒めていたーーー。


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