今日、愛する妻が死にました。
7.回顧
二週間とった有給も残り3日となり、圭吾は帰路についた。
途中、ふと、のぞみと結婚記念日を過ごしていた宿のことを思い出した。
毎年、翌年の結婚記念日の日を予約して帰るのが圭吾とのぞみの楽しみでもあり、約束でもあった。
来年も一緒に結婚記念日を過ごそうね、と。
一年目からずっと同じ宿にお世話になっていて、そこの主人ともすっかり顔馴染みだ。
確か去年も、例にならって翌年の予約をとっていた。
「.....そろそろ、だな」
結婚記念日は、もうすぐだ。
今年は行けない、と連絡しなければ。
....いや、ちょうど実家からの道すがらの駅にある。途中下車して、顔を出していこうか。
.....主人には、お世話になったしな。
圭吾は、そのまま宿のある駅で降りて歩き始めた。
駅から宿までの道中、のぞみと過ごした思い出がつぎつぎと蘇ってきて、また涙腺が緩んだ。
「....すみません、ご主人はいらっしゃいますか?」
ガラガラと宿のドアを開けて中に入る。
まだ営業前で、人影は見えない。
「......いらっしゃいませ!よくぞお越し下さいました!ご予約の....あれ?山本様ではございませんか!」
パタパタと奥から出てきた主人は、圭吾を見て笑顔になった。
「.....今日はどうされましたか?嬉しいです、お越し頂けて。あ、どうぞ。そちらにお座りになって下さい。お茶菓子でもお出ししますので」
「あ、いや。とんでもない。すぐにお暇しますので」
「......?」
「あの、今日うかがったのは、予約を....今年の予約を取り消して頂きたくて」
「....え?....はい、もちろん....それは大丈夫でございますが....」
主人は、言いにくそうにしながらも理由が知りたいのだろう。デリケートなことなので、尋ねていいものか思案しているようだった。
そして、圭吾は妻が亡くなったことを説明した。
十数年、ずっと記念日にお世話になっていた宿だ。
主人も特別に思ってくれていたのか、人目を気にせず涙を流して悼んでくれた。
「本当に、仲の良いご夫婦で。スタッフ一同、毎年来て下さるのを心待ちにしておりました」
「.......随分お世話に、なりました」
「いえ、私どもこそ!....いつか...落ち着きましたら。もし良ければ、またいらして下さい。奥様との思い出が詰まったお部屋をご用意いたします。あ、もちろん妹さまも!お姉さまとの思い出の場として来て頂けたら嬉しく思います」
「.......は、い?いも、うと....ですか?」
「はい」
「.........」
「........山本、さま?」
主人が、首を傾げている。
.....のぞみと『あけみ』が2人で訪れていたのか?
「.....妹、というのは....のぞみの、ですか?」
「え?....はい、さようでございます。いつも、三人で一緒に宿泊してくださっていた、妹さまですよ」
その瞬間、圭吾は恐怖しか感じなくなった。
こんな所でも付き纏ってくる得体の知れない女の影にも....つぎつぎと知らない顔を見せる妻、のぞみにもーーー。
「.....妻の妹、は.....毎年ここに、泊まっていたんですか?」
「.........」
ただならぬ様子に、主人も言葉に詰まっている。
圭吾は、勝手に震え始める体に力を入れて、もう一度尋ねた。
「.....ここに、泊まっていたんですか?」
「....は、はい。毎年かは....確かお越しにならない年もありましたが.....いつも山本様ご夫婦の結婚記念日に、隣の部屋をご予約されておりました。姉夫婦が一緒にと誘ってくれて嬉しい。なるべく夫婦水入らずを邪魔しないようにしないと、と仰っていましたよ....?随分、仲の良い姉妹なのだな.....と」
「........隣の、部屋?そ、んな....」
「.........」
そんな女、知らない。
叫び出しそうになるのをすんでのところで堪えた。
主人に言っても仕方ない。困らせるだけだ。
.......誰だ?...何の目的があるんだ?
その時、時折のぞみの写真を撮っていたことを思い出した。
写真が好きだったのぞみほどではないが、記念日ともなると、たくさん写真を残しておきたくて、よくスマホのカメラで撮影した気がする。
まさか、とは思ったが....胸が騒ぐ。
写真アプリを開いてスクロールさせていく。
額から冷や汗のようなものが流れた。
体はまだ小刻みに揺れていて、うまくスマホを握れない。
「........っ。こ、れは.....」
途中、ふと、のぞみと結婚記念日を過ごしていた宿のことを思い出した。
毎年、翌年の結婚記念日の日を予約して帰るのが圭吾とのぞみの楽しみでもあり、約束でもあった。
来年も一緒に結婚記念日を過ごそうね、と。
一年目からずっと同じ宿にお世話になっていて、そこの主人ともすっかり顔馴染みだ。
確か去年も、例にならって翌年の予約をとっていた。
「.....そろそろ、だな」
結婚記念日は、もうすぐだ。
今年は行けない、と連絡しなければ。
....いや、ちょうど実家からの道すがらの駅にある。途中下車して、顔を出していこうか。
.....主人には、お世話になったしな。
圭吾は、そのまま宿のある駅で降りて歩き始めた。
駅から宿までの道中、のぞみと過ごした思い出がつぎつぎと蘇ってきて、また涙腺が緩んだ。
「....すみません、ご主人はいらっしゃいますか?」
ガラガラと宿のドアを開けて中に入る。
まだ営業前で、人影は見えない。
「......いらっしゃいませ!よくぞお越し下さいました!ご予約の....あれ?山本様ではございませんか!」
パタパタと奥から出てきた主人は、圭吾を見て笑顔になった。
「.....今日はどうされましたか?嬉しいです、お越し頂けて。あ、どうぞ。そちらにお座りになって下さい。お茶菓子でもお出ししますので」
「あ、いや。とんでもない。すぐにお暇しますので」
「......?」
「あの、今日うかがったのは、予約を....今年の予約を取り消して頂きたくて」
「....え?....はい、もちろん....それは大丈夫でございますが....」
主人は、言いにくそうにしながらも理由が知りたいのだろう。デリケートなことなので、尋ねていいものか思案しているようだった。
そして、圭吾は妻が亡くなったことを説明した。
十数年、ずっと記念日にお世話になっていた宿だ。
主人も特別に思ってくれていたのか、人目を気にせず涙を流して悼んでくれた。
「本当に、仲の良いご夫婦で。スタッフ一同、毎年来て下さるのを心待ちにしておりました」
「.......随分お世話に、なりました」
「いえ、私どもこそ!....いつか...落ち着きましたら。もし良ければ、またいらして下さい。奥様との思い出が詰まったお部屋をご用意いたします。あ、もちろん妹さまも!お姉さまとの思い出の場として来て頂けたら嬉しく思います」
「.......は、い?いも、うと....ですか?」
「はい」
「.........」
「........山本、さま?」
主人が、首を傾げている。
.....のぞみと『あけみ』が2人で訪れていたのか?
「.....妹、というのは....のぞみの、ですか?」
「え?....はい、さようでございます。いつも、三人で一緒に宿泊してくださっていた、妹さまですよ」
その瞬間、圭吾は恐怖しか感じなくなった。
こんな所でも付き纏ってくる得体の知れない女の影にも....つぎつぎと知らない顔を見せる妻、のぞみにもーーー。
「.....妻の妹、は.....毎年ここに、泊まっていたんですか?」
「.........」
ただならぬ様子に、主人も言葉に詰まっている。
圭吾は、勝手に震え始める体に力を入れて、もう一度尋ねた。
「.....ここに、泊まっていたんですか?」
「....は、はい。毎年かは....確かお越しにならない年もありましたが.....いつも山本様ご夫婦の結婚記念日に、隣の部屋をご予約されておりました。姉夫婦が一緒にと誘ってくれて嬉しい。なるべく夫婦水入らずを邪魔しないようにしないと、と仰っていましたよ....?随分、仲の良い姉妹なのだな.....と」
「........隣の、部屋?そ、んな....」
「.........」
そんな女、知らない。
叫び出しそうになるのをすんでのところで堪えた。
主人に言っても仕方ない。困らせるだけだ。
.......誰だ?...何の目的があるんだ?
その時、時折のぞみの写真を撮っていたことを思い出した。
写真が好きだったのぞみほどではないが、記念日ともなると、たくさん写真を残しておきたくて、よくスマホのカメラで撮影した気がする。
まさか、とは思ったが....胸が騒ぐ。
写真アプリを開いてスクロールさせていく。
額から冷や汗のようなものが流れた。
体はまだ小刻みに揺れていて、うまくスマホを握れない。
「........っ。こ、れは.....」


