今日、愛する妻が死にました。

6.混乱

 ガチャッ。

「ただいま...」

「あぁ、おかえり、圭吾。....呑んできたの?水持ってこようか?」

「.....いい。それより....聞きたいことがあるんだけど」

 天堂には、体調が悪くなったと言ってわかれ、圭吾は家に戻ってきた。
 玄関に入ると、母親がパタパタと走り寄ってくる。
 圭吾は、未だ回らぬ頭で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
 玄関に立ちすくんだままーーー。

「.....ん?」

「.....俺の結婚式。友人席に座っていたっていう『あけみ』って女の子.....知ってる?」

「.....『あけみ』さん?....さぁ、どうだったかね。あんたの友人席に居る子には、なるべく挨拶して感謝したのは覚えてるよ?いつも圭吾によくしてくれてありがとうねって....。確かに女の子と話した記憶もあるけど....顔も名前もあんまりよく覚えてないね。あの日はバタバタしてたから」

「.......」

「.....それがどうかしたの?」

 そのまま黙り込んでしまった息子を、母親が不思議そうに覗き込んでくる。

「.....なん、でもない」

「.......?」

 圭吾は家に上がって、冷たいシャワーを浴びた。
 とにかく冷静になりたかった。

 まだ心臓がバクバク騒いで、直接頭に響いてくる。
 耳鳴りがする。


 僕は、招待客の名前にそんな女性の名前は書いていない。
 そういえば、丁度忙しい時期と重なっていた。
 リストや席順を決める書類を、碌に確認せず式場に提出した気がする。


 .....誰かが書き加えた?
 .....一体、いつ? 誰が? 何のために?
 .....まさか......のぞみ、か?


「それに......」



 あのハンカチ。端の方に薄れていた名前らしき文字。
 『ま.......あ....み』。


 何かが繋がりそうで。
 でも...まだ何かが足りない気がして。


 僕は、何を見逃してるんだ....?


「....だめだ、全然わからない。.....『あけみ』って誰だよ。......のぞみの、知り合いか?」

 圭吾の呟きは、誰にも拾われることなく冷えた水とともに流れていったーーー。

 
*******



 天堂は、まだ居酒屋に居た。

 突然、席を立った圭吾の背中を見つめながら、その前の会話を思い出す。

 店長に水をもらって、少し酔いが醒めてきた。
 冴えてきた頭でよくよく考えると、あの時の圭吾の様子はおかしかった。
 あけみの話を出したときだ。


 ......本当に知らなかった?冗談じゃなくて?


 何か引っかかりを覚えた天堂は、スマホをいじり始める。
 しばらくして、電話の向こうでコール音が鳴り響いた。

「....あ。もしもし、俺だけど....。あぁ、実は聞きたいことがあってーーー」

 また、ひとつ何か動こうとしていたーーー。

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