【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

 薄暗い闇が空を覆い、松明の明かりが王城の石畳や長く伸びる階段を照らす頃ーー。

 モーリャント王国の歴史ある家、リーフェント公爵家の馬車が城の前に停まった。カモミールやゼラニウムといったハーブをモチーフに描かれた珍しい家紋がはいっている。

 御者が慣れた手つきで扉を開ける。

 ステップを踏み地面に降り立ったのは、ジャスミン・リーフェント。本来エスコート役がいるはずの年頃の令嬢だが、誰一人迎えにくる者はいない。

 分厚いメガネに隠されて、この国では珍しいラベンダー色の瞳は見えていない。後毛ひとつ逃さぬようにキチンと一つに纏められた黒髪。深緑のレースもあしらわれていないシンプルなドレス。肌は色白できめ細やかであるが、そこを飾るアクセサリーはひとつもない。

 いかんせん二十歳という若さを活かす装いとは言い難い、地味なコーディネートだ。

 唯一、彼女が持っているものと言えば、これまた控えめな柄の扇子とーー辞書並みに分厚い本。

 背表紙の立派なつくりからして高価なものだと一目でわかる本を馬車の中でも読み耽り、王城に到着して地面に降り立った瞬間から再び開いて顔を隠す勢いで読み進める。

 舞踏会が開かれるホールへと足を向けながら、読書に没頭する。

 彼女が通る道を先に歩いていた貴族の若い令嬢や令息たちが気付き、ザワザワと声をあげてパカっと両端に避けていく。

 ジャスミンはそんな様子にも気づかず、ただ本に視線を集中させていた。


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