隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
赤紫色の液体がたぷたぷと揺れるグラスを楽しそうに華奢な手に持って、コツコツ高いヒールを鳴らし近づいていく先には、一人のご令嬢。
この国の貴族の令嬢にはあまり居ないショートカットの髪の毛は、月光の如く輝く白銀色。私と同じく眼鏡をかけていて、瞳の色は判別できない。けれど通った鼻筋や艶やかな唇から整った顔のつくりであることがうかがえた。
着るドレスは他国のものだろうか。モーリャント王国の令嬢たちが着るものとは違っていて、紫のチャイナドレスに近い形だった。一見シンプルだが、生地は上質で、刺された刺繍も見事な意匠だ。
.....留学生かしら。
そう思っていると、そのご令嬢のそばまで来たトランドル男爵令嬢が、何も言わず立ったままの彼女のドレスに向かってあろうことかグラスを傾けたのだ。
「........っ」
パシャと小さく音を立てじわっとシミを広げていく液体。声にならない悲鳴をあげて一歩後ずさった令嬢をみてトランドル男爵令嬢の艶めくリップがぐにゃりといやらしく歪む。
彼女の手からグラスが手放されてヒュッと勢いを緩めず床に落ちていった。
.....カシャン!
大理石の白い床にキラキラとガラスが飛び散り、割れたグラスが無惨な破片となっていた。
その音にホールにいる全員ではないものの、近くに陣取っていた令嬢や令息たちのグループは一斉にトランドル男爵令嬢と留学生と思しきご令嬢の方を振り向く。
それを見計らってトランドル男爵令嬢が声を上げた。