Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
旬が用意したレストランの個室

すでに賑やかだった。

両家の両親が先に集まり、
もう普通に飲んでいる。

笑い声。

グラスの音。

旬の父が上機嫌で話している。

希の母も楽しそう。

そこへ扉が開く。

広哉、凌、圭祐、そして妹の梨乃が入る。

広哉が一言。

「もう始まってんの?」

希の母が振り返る。

「だってあんた達遅いんだもん」

圭祐が時計を見る。

「いや集合時間前だけど?」

旬の父が笑う。

「こういうのは早い者勝ちだ」

梨乃が小声で。

「なんかただの宴会だね」

凌が冷静に。

「本題はこれからだろ」

そのとき。

もう一度扉が開く。

旬と希。

並んで入る。

自然と空気が整う。

両家の視線が集まる。

旬は落ち着いている。

希は少し緊張しているけれど、まっすぐ。

席に着く前に、旬が立つ。

「今日は集まってくれてありがとう」

ざわつきが止まる。

「今日は報告があります」

希を見る。

そして、両親を見る。

「俺たち」

「結婚します」

一瞬の静寂。

次の瞬間。

希の母が両手で口を押さえる。

「え……」

旬の父が大きく笑う。

希が続ける。

「青山プロジェクトに参加する事になって、その前にマスコミに発表するから、まずは報告をと思って」

声は震えていない。

強い。

希の父が静かに言う。

「旬」

「はい」

「希を、幸せにできますか」

部屋が静まる。

旬は一瞬も迷わない。

「します」

短い。

でも重い。

「幸せにするというより」

「一緒に幸せになります」

希の父の目が潤む。

希の母はもう泣いている。

梨乃も鼻をすすっている。

圭祐が小声で。

「もう泣いてる」

凌が冷静にティッシュを渡す。

そのとき。

旬がポケットに手を入れる。

広哉が一瞬気づく。

(あ、今だな)

旬が希の前に立つ。

希、目を見開く。

「え、ここで?」

旬は静かに片膝をつく。

両家全員の前で。

「改めて」

小さな箱を開く。

指輪が光る。

「希」

「俺と結婚してください」

完全に正式なプロポーズ。

希の目から涙が溢れる。

「……はい」

小さく、でもはっきり。

旬が指輪をはめる。

拍手が起こる。

圭祐が立ち上がって拍手。

広哉も笑いながら叩く。

凌は静かに頷く。

両親たちは完全に泣いている。

旬が立ち上がる。

希を見つめる。

「これで正式に」

希が涙を拭きながら笑う。

「ずるい」

部屋はもう祝宴。

酒が注がれ、

笑い声が戻る。

でも空気は変わっている。

ただの宴会じゃない。

家族がひとつ増える日。



レストラン個室・祝宴の中

指輪もはまり、

拍手も落ち着き、

料理が運ばれ始めた頃。

両家の母たちが並んで座りながら笑っている。

希の母がグラスを持って言う。

「やっとだねー」

旬の母も大きく頷く。

「ほんとにこの子達は……奥手というか、なんというか」

希の父が苦笑する。

「慎重すぎるんだよ」

旬の父も笑う。

「石橋叩きすぎて壊すタイプだな」

場が和む。

そして希の母が少し声を落とす。

「ここだけの話ね」

全員、少しだけ身を寄せる。

「私たち、これだけ仲良くなったじゃない?」

旬の母が頷く。

「うん」

「もしあの子達が上手くいかなくても」

一瞬の間。

「私たちは仲良しでいようね、って言ってたの」

兄弟たちが一斉に「え?」となる。

圭祐。

「まじ?」

旬の父が笑う。

「子どもより親の方が先に仲良くなってたな」

希は目を丸くする。

「そんな話してたの?」

希の母は照れくさそうに笑う。

「だってねぇ」

「あなた達がどうなっても、私たちの関係まで終わらせたくなかったの」

旬の母も頷く。

「大人の友情は簡単に切れないのよ」

その空気を受けて、

広哉がグラスを置く。

「わかる」

全員が見る。

「俺らもさ」

少しだけ照れながら続ける。

「もう圭祐と兄弟だし」

圭祐が「急に名前出すな」

広哉は続ける。

「4人の絆はこのままだよな、って思ってたよ」

凌も静かに頷く。

「もう家族に近い」

圭祐が笑う。

「万が一別れても、俺は希側に残るからな」

旬が即座に。

「別れない」

笑いが起きる。

でも、その笑いの奥には本気がある。

“もしも”を想定して、

それでも関係を残そうと決めていた人たち。

希は少しだけ目が潤む。

「なんか……」

「みんなの方が先に覚悟決めてたみたい」

旬が横で小さく言う。

「俺は最初から決めてた」

希が見る。

「なにを?」

「別れる選択肢を持たないこと」

静かな声。

でも重い。

希は笑いながら涙を拭く。

「もう、ほんとにずるい」

旬の母が言う。

「あなた達ね」

「恋愛は二人だけど、結婚は家族なのよ」

希の父がグラスを掲げる。

「じゃあ改めて」

「家族になる二人に」

旬の父が続ける。

「そして、すでに家族みたいな俺たちに」

全員で乾杯。

グラスが触れ合う音。

この場にあるのは、

恋の勝敗じゃない。

選び続けた時間。

見守り続けた家族。

そして、

もしもの未来まで想像しても壊れなかった関係。

希はふと思う。

(私、ひとりじゃない)

旬の隣で、

強く、静かに思う。

全部やる。

全部守る。

Minoも、

青山も、

この家族も。
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