愛しい君へ〜君が振り向くその日まで〜
「それから、ひより。君は、僕の妻になるんだから、僕の言葉は絶対だ。君に拒否権はないからね。藤崎家の嫁として、僕の妻として恥のないよう、よろしく頼むよ。それから今日から、僕のことは怜司さんと呼ぶこと。分かったね?ひより。」
藤崎社長はわたしに圧をかけるような口調でそう言った。
そして、わたしはその言葉に対し「はい、怜司さん。」と返事をするしか無かった。
「いい子だ。それじゃあ、仕事に戻りなさい。僕は、これから出掛けて来るからね。」
藤崎社長、いや、怜司さんはそう言うと、わたしが会長室から出るように目で訴えているように見えた。
それを察したわたしは、「はい、わかりました。それでは、失礼致しました。」と言うとソファーから立ち上がり、会長と怜司さんに向けて一礼をしてから、会長室を退室した。
「···っ···はぁ······」
会長室から出たその瞬間、あの何とも言えない圧と緊張感から解放され、身体の力が抜けたわたしは、直ぐ側の壁にもたれ掛かった。
(わたし···、これで正式に藤崎社長の妻になってしまったの?)
そんな事を思い、自分の今後が不安でたまらなかった。
こんな気持ちのままで仕事に集中出来る気がしない。
しかし、いつまでもそこに立ち止まっているわけにもいかず、わたしは一つ溜め息をつくと、重い足取りで自分が配属されている販促課があるフロアへと向かったのだった。
エレベーターで配属フロアまで下りると、販促課へと入り、自分のデスクに戻る。
すると、何だかチームのみんなからの視線を感じた。
みんな「どこに行ってたの?」とでも言い出そうな表情を浮かべ、チラチラとこちらを見ているようだった。
(こんな時間まで不在だったんだから、不審に思われても仕方ないよね。)
そう思いながらも、わたしはずっと悩んでいるわけにもいかず、仕事に支障をきたすわけにもいかない為、気持ちを切り替える努力をし、自分の業務を開始したのだった。