愛しい君へ〜君が振り向くその日まで〜

自宅への帰り道の車内。
しばらくの間、わたしたちの間には沈黙が流れたが、その沈黙を破ったのは匡だった。

「···無理に婚姻届、書かされたんだって?」
「···うん。会長と社長を目の前にして、断れなくて······。」
「本当、あいつ最低な野郎だな。顔を思い出すだけで腹が立つ。」

苛つきが隠せず、匡のハンドルを握る手に力がこもっているのが分かった。

「ごめんね···匡は、わたしの幸せを願ってくれてたのに、とんでもない事になっちゃって···安心どころか逆に心配かけることになっちゃったよね···。」
「ひよりが謝ることない。···なぁ、ひより。何かあったら必ず連絡して来いよ?うちに逃げて来ても良い。俺が必ず、今度こそひよりを守るから···限界になったら、いつでも頼って来いよ。」

匡の言葉に少しだけ心が解されていく自分が居た。
もちろん、不安が消えたわけではない。
それでも、逃げられる場所がある、それだけで救われる思いだった。

わたしが「ありがとう。」と呟くと、匡は「俺は、何があってもひよりの味方だから。それだけは忘れるなよ?」と力強くも優しく言ってくれたのだった。

そして、自宅マンションに到着すると、マンションの目の前に大きなトラックが停まっているのが見えた。

(何だろう?引っ越し?)と思ったが、マンションから出て来る業者の人たちが見覚えのある家具や電化製品を運び出して、トラックに積み込んでいる事に気付く。

(え?あれ、わたしのものじゃない?)

嫌な予感がしたわたしは「匡、ごめん。先に降りるね。」と言うと、匡の車を降りて、急いで3階まで駆け上がった。

すると案の定、なぜか勝手に開いたわたしの家から、次から次へとわたしの家具や電化製品たちが外へ運び出されていたのだった。
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