天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜

悪魔の記念日

 その日は満月だった。
 雲一つない空、月の明りが彼の顔を照らしている。
 男性なのに女性のような中世的な顔立ちがはっきりと見え、綺麗で神々しい。彼の長い髪の毛がサラっと風に吹かれた。

「ディヤを一番に愛している。信じてほしい」

 その(ひと)は月明りの下、私をギュッと抱きしめながらそう囁く。
 沈香(ウード)の匂い。厚い胸板。大きな手。こんなにも大切にされたのは、生まれてはじめてだった。

「はい。アニル様のことを信じています」

 ずっとこの人と一緒にいたい。
 存在を確かめるように、私も彼を強く抱きしめる。
 
 崩れることのない愛を信じていた。
 だけど、幸せとは一瞬で終わりを告げることを知ったのは、その日から一年過ぎた頃ーー。

 私は彼だけを愛すると決めたのに、どうして私を裏切ったの?
 こんなに苦しくて苦しくて、憎いくらい悲しい気持ちになるんだったら、あなたと出逢わなければ良かった。
 私にはもうあなたしかいないのに――。

・・・・・---・・・・
 
 現代――。

「はぁっ!」

 息が詰まりそうになり、ベッドの上で飛び起きた。
「ふぅ……。またあの夢か」
 知らぬ間に涙を流していたみたい。目元と頬が濡れている。
 どうして今日、思い出しちゃったんだろう。朝から気分が悪くなる。
 今日はせっかくの記念日なのに。

 こんな夢を見てしまった私だけれど、現在生きてきた中で一番幸せだと感じる毎日を送っている。
 私、光藤 雫羽(みつふじ しずは)、二十九歳は、五歳年上の、松田 優馬(まつだ ゆうま)と交際中。

 今日は彼氏である優馬と付き合って一年の記念日。
 夕食は優馬が予約してくれたレストランで食事の予定だ。
 楽しみで仕方がない。

 私は普段、総合病院の事務職をしている。
 総合病院だから医師や看護師を含めるとかなりの職員が働いているが、その中で良い出会いはなかった。
 年齢も考え、恋愛をしたいと素直に思い、登録したマッチングアプリで優馬と出逢い、デートを数回重ねると彼から告白してくれた。
 
 優馬はシステムエンジニアをしていて、最近は忙しくあまり会えていないけれど、連絡はマメにしてくれる。
 休日が合えば、私が行きたいと言っていたレストランやカフェに連れて行ってくれる。 
 今までの男性とは違い、本気で将来を考えられる人と巡り会えたって感謝の毎日だ。

 今日はいつもより入念にメイクをして、買ったばかりのワンピースを着て、髪の毛もふわっと巻いてみた。
 優馬はどんな反応をしてくれるんだろう。
< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop