天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜

彼女が忘れてしまったもの

「あの……。私……」

 風見先生、怒っちゃった。
 プライドが高い先生なの?
 よくわからない。

「今は良いよ。何も考えなくて。これから大変になるかもしれないから。雫羽ちゃん、階段から落ちちゃったのは、自分の不注意だった?」

 えっと。あれは、あの感覚は、絶対に突き落とされた。背中を思いっきり押されたんだ。

「私、帰宅しようとしていたと思うんです。そしたらいきなり背中を力強く押されました。あれは、事故じゃなく、誰かの故意だと思います。犯人は見えませんでした」

「そっか。わかった。警察が気にしていたことだから、一応、それも報告しておくね。病室に聞き取りにくるかもしれないから。しばらく休んでいて?」

 高木先生は、何か困ったことがあったら呼んで?と優しく伝えてくれた。

 私、前にもすごく優しくしてくれた人がいる。大切にしてくれてた人が……。
 事故の前?
 好きだった人?
 よくわからないけど、心がザワザワする。

 もしかして……。
 私、高木先生のことが好きだったの?
 だから近くにいるのに、思い出せないから、心が焦っているのかな。

 今は……。
 なんだか少し話しただけで疲れちゃった。
 私は再び、目を閉じた。


 起きると、高木先生が近くにいた。
 パチパチ瞼を動かすと
「おはよう。雫羽ちゃん」
 優しく口角を上げる先生、ずっとそばにいてくれたんだろうか。

 もしかして、私、高木先生のことが好きだったの?
 とっても大切な人がいた。
 私の一番の理解者になったくれた人。

「あの、私が好きだった人は、お付き合いしてくれた人は、高木先生だったんでしょうか?違っていたらすみません」

 高木先生は瞳を大きくさせ、言葉を失ったように無言になった。

 一度私から目線を逸らしたかと思うと
「そうだよ。思い出してくれた?」
 高木先生は眉目が下がり、困ったかのような顔をしている。

「ごめんなさい。しっかりとは思い出せなくて。思い出せるように頑張ります」

「うん」

 高木先生は私の肩にポンと手を乗せる。
 その時、病室をノックする音が聞こえた。

「失礼します。警察です。もし体調が良ければ、今回の事件について、お聞きしたいことがありまして……」

「はい。大丈夫です」

 高木先生は病室からいなくなり、私は転落した時の状況を覚えている限りで伝えた。

「駅構内の防犯カメラ等を調べています」

 そんな風に教えてくれたけど、まだめぼしがついていないみたい。
 
 私、誰かに恨まれるようなことをしたっけ?
 それとも、通り魔的な犯行なんだろうか?

 早く捕まってほしい。
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