天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「……。雫羽?」

 高木先生が連れてきたのは一人の《《医師らしき人》》だった。
 
 ああ。私の主治医なのかな。
 私を助けてくれたのは、この先生?
 こんなにかっこ良い先生、病院にいたっけ?
 いたら忘れないと思うのに。

「良かった!雫羽……!」

 その先生は、私の名前を呼び、ベッドへ覆いかぶさるようにふわっと優しく抱きしめてくれた。

「……。ありがとうございます」

 きっと大手術だったのかな。患者さんの目覚めでこれほど喜んでくれる先生なんて、あまりいないと思う。

 先生と目が合った。

 もしかして、泣いてる?
 そんな大げさな。
 家族とか恋人でもないのに。

 クールな先生っぽく見えるのに、感情が豊かな人なんだ。きっと。

「どこか痛いところはあるか?」

「頭がまだぼんやりしています。身体が重くて……」

「そうか。無理しなくて良いから。今日は、俺がここにいる」

「えっ?」

 どうしてそこまでしてくれるの?
 夜勤の先生だっているはずだし、看護師だっているのに。
 個室ではあるけど、ICUじゃないから、きっと命の危険性は少なくなっているんじゃないのかな。
 だから、そんなに一緒にいてくれなくても良いのに。

「はぁ……。本当に良かった。俺は邪魔みたいだし、一応、脳外の先生に報告しておくね」

 高木先生は病室から出ようと手を振っていた。

「あっ。高木先生……」

 私が先生を呼び止めると
「どうしたの?」
 首を傾げながら近くに来てくれた。

 本人を近くにしながら言い辛いけど、今は身体が動かないし……。
 調べることもできないから、正直に話そう。

「すみません。《《こちらの先生》》、私の主治医の先生は、なんておっしゃるんでしたっけ?お会いしたことがあるかもしれないんですが、まだ思い出せなくて」

 チラッと隣にいる先生のことを目線で合図した。
 私の言葉を聞き終わった瞬間、二人は瞳を大きくさせ、何も話さなくなってしまった。
 ああ、やっぱり失礼だったかな。
 このイケメンの先生のこと、どうしても思い出すことができない。

「……。雫羽ちゃん、もしかして、《《風見先生》》のこと、覚えていないの?」

 高木先生は言葉を選んでいるようだ。

「風見先生って言うんですね。すみません、思い出せなくて」

 それから無言の時間が続く。

「雫羽。冗談だよな?俺のこと忘れるとか……」

 風見先生は、声が震えている気がする。
 そんなに怒っているの?

「すみません。ごめんなさい。私の担当をしてくれたんですよね……?お名前、わからなくて……。ごめんなさい」

「嘘だろ?」

「えっ」

「嘘だよな?風見……。透空さんって言ってくれよ……」

 何を言っているの?
 透空さんって誰のこと?
 どうしてそんなに風見先生は馴れ馴れしいの?

「風見先生。落ち着いて。一過性の可能性もあるから。雫羽ちゃん、起きたばかりなんだよ。思い出す可能性も……」

 高木先生の言葉を途中で遮り、風見先生は病室から出て行ってしまった。
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