好きをいう前に君の声は風になる
プロローグ『余命わずかな少女の父は何を思う』

プロローグ『余命わずかな少女の父は何を思う』

『お嬢さんは、心疾患の可能性が高いです』
『心疾患?』
『えぇ。ここの心臓の部分、分かりますか?うちでは断定できかねないんですがね。市内の病院に紹介状を書いておきますので、そちらで詳しい検査をもう一度しますね』
田舎まちに位置する小さな病院。少女は風邪を引くといつもそこに診てもらっていた。
医者は随分と彼女の内部構造を把握していた。幼い頃から、いや、彼女の母親が彼女を産んだ時から世話になっている。
『心疾患、ですか』
父親は意外にも落ち着いていた。しかしその裏腹、誰もいない真昼の車内で静かに涙をこぼした。男の心理上、人前では泣きたくない。娘の前では絶対に泣かないと決めていた。
車を走らせて10分、父親は帰宅した。
『あ、おかえり!どうだった病院?なんか病気でもあったん?なんか知んないけどさ、病院行ってから元気になってきたんだけど!どういうことこれ!』
笑顔で出迎えてくれたのは、娘の空音。天真爛漫で笑顔がはりつき周りを巻き込む子。
『てかいまから葉那くるんだけどいい?ってかもう呼んじゃったんだけどさ~』
『えー葉那ちゃん!久しぶりだな~』
『反応きっも...』
机の上には勉強道具が広げられていた。
梅雨も明けてすっかり暑くなった夏。
風鈴の音が静かに揺れていた。
時計の針が進む音がゆっくりと聞こえ、思わず目を向ける。
まだお昼時。

ピンポーン

『あ、きたかな!はーい!』
シャープペンシルを床に投げ捨てて勢いよく玄関に向かった。その後ろ姿がどうも脳裏に焼きつく。
『やっほー!あっつ!』
『今日やばいよね?』
笑顔で笑うあの子の姿はもう———
幻となった。
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