好きをいう前に君の声は風になる
1余命わずかな少女

第一話

私の家は父親だけ。母親は幼い頃に事故で亡くなった。父親に母親が亡くなった時のことを聞いても、機嫌が悪くなるだけだった。
私は物心ついた頃から父親と二人で暮らしていた。意外と大きな家に二人で静かに暮らしていた。生活習慣も良ければ家庭環境もよかった私が、なぜ心臓病になったのか?
ネットで調べたら、心臓病の大半は生活習慣と因果してるんだって。
私は何度も同じことを調べて何度も同じページを開いた。
でも、結果出てくるものは同じだった。
人はいつしか、死ぬ。そんな中で、いつ何で死ぬかは誰にも分からない。
答えのない問い。
頭のいい学者も、世界的有名な数学者も、絶対に証明できない。
でも、いつ死ぬかが分かる人がごく一部いるのだ。そんな人からメッセージを贈っておく。
この物語は、死ぬことが分かっていた”わたし”からの教訓となることを願ってる———



病室でウトウトしながら目を瞑った。目を瞑れば何も見えなくなる。
この瞬間が何よりも幸せだった。何も考えなくて済むし、どんな派手なものにも目がいかなくなる。自分だけの世界に入れるこの瞬間が好きだ。
しかし、これも束の間。すぐに看護師が部屋に入ってくる。

コンコンコン

「白夜さん!入りますねー!」
毎朝、看護師と共に担当の医師が入ってくる。私の医師と看護師は固定である。
毎朝毎朝いつもの二人が私の病室に入ってくる。看護師は大きな機材をたくさん持ってきている。医師は聴診器だけをいつも首にかけている。それ以外は何も持ってこなかった。
彼の名前は朝倉涼。毎日、私の心臓に聴診器を当てる。
それは、私の心音が正常かどうか確かめるため。
「うん、今日は大丈夫だね」
先生はこのセリフ以外何も言わない。まるで裏に脚本家がいるかのように。回復しているときも、悪化しているときも。前まではそんなくだらないことに関心を抱いていた。
何でいつもそれしか言わないのかな?って。
しかし、最近になって理由が少しわかってきた。
それはね、私は、死ぬことが決まっているから。



『先生へ。って、固くなってごめんなさい。コマを始める前に一言だけ言わせてください。

これは、ただの女子高生の私が、一人の医師に恋をした物語。
人の人生を見るのってつまらないと思う。でもね、短い人生だからぜひ見ていってほしい。
彼にも、私には言えない秘密があるから.....



私は中学二年生の時から胸の痛みがあった。最初は違和感があるだけだった。胸に何か詰まってる感じ。
部活中も少しの痛みだけだったので、いつも通り参加していた。
でも、ある晩の日から、胸の痛みで起きるようになった。生理痛で起きるみたいな感覚。
この時、病院に行っていればまた違ったのかな、とも思う。私は気にせずに無理やり眠りにつこうとした。もちろん、父親にはこのことを言っていない。しばらくすれば収まるだろうと思っていたから。
しかし、徐々にめまいがするようになった。登下校中、授業中、部活中。何度も何度も失神した。
『ナイスショットー!空音すごいじゃん!』
『ありがと!.....うっ...あぁ.....!』

バタン!

『空音?空音?!空音!』
失神すると、スーッと眠ってしまうような感覚になる。最初は苦しいんだけど、意識を失ってしまえば何も感じない。苦しみも、痛みも。
いつも目が覚めると保健室にいた。大体友達が連れて行ってくれるらしい。
でも、私は保健室が嫌いだった。保健室の先生って、何であんなに気が強いの?私がベッドから起き上がるといっつも奇怪な目で見てくる。
またあなた?
そんな言葉を言いたげだったけど、一応先生だからなのかグッと堪えていた。
そんな息苦しい生活の中に耐えきれず、このことを父親に打ち明けた。
すると父親は心配そうな表情をしながら行きつけの病院に連れて行ってくれた。
そこでは、いくつかの簡易検査を受けた。30分ほどで終わってしまった。
先生から言われたことは一つ。それは———
医者から伝えられた、『心疾患』だった。
咄嗟に言葉が出なかった。きちんと話を聞いていたつもりだったのに。
私は授業中真剣に話を聞くタイプ。分からないことがあれば授業後に先生に聞きに行くほど真面目ちゃん。
傾聴力は誰よりもあると思っていた。
でも、心疾患かも、と言われた時は何も言えなかった。こういう時って何て答えるのが正解なのか。高校生の私にとって、何が正解なんて分からなかった。
その後、大きな病院でさらに詳しい検査を受けた。
一週間の検査の末、結局心疾患だっただなんて。
私の場合、どちらかというと遅めの発見だったらしい。もう少し早く病院に行っていれば、早期発見として治療の見込みがあったかもしれない。
先生の意味のない肯定に、私は苛立ちを覚えた。
もう、治せないらしいって、キッパリと言われたよ。
映画で見るようなことが、現実で起きてしまったの?
先生は、父親と二人で話すと言って私を診察室外に追い出した。
制服を着たまま館内を歩いた。下を向いてみると、膝下が赤く腫れ上がっていた。昨日の夜、シャーペンでギシギシとやっちゃったからかな。内出血までしていた。

私って、こんな人間だったっけ?

ふと思うことが全て思いたいことじゃない。なんか、必然的にそう思っちゃうだけで、今はこんなことしてる場合じゃない。他にやることがたんまりあるはず。
近くのソファに腰掛けて父親を待った。辺りを見回すと、ほとんどの人が入院服のようなものを着ていた。若い者はほとんどおらず、周りからの視線が苦しい。
無感情になり、前を向いて黙り込んだ。
その時、ある一人のお爺ちゃんに話しかけられた。
『こんにちわ』
私はペコリとお辞儀をすると、彼は驚いた表情で言った。
『君、どうしてここにいるんだい?まだ若そうじゃないか』
『あぁ...えっと.....』
『.....無理して言わんくていい。私はここに住んでいる山おじちゃんだ。気軽に遊びに来なさい。たまに気の強い嫁が来るが、気にしないでくれよ!』
『あ、ありがとうございます』
お爺さんは派手に笑いながら車椅子を押してエレベーターに乗り込んだ。
一体、なんだったんだ?
通りすがりの知らないお爺さんに病室をご招待された。
彼は誰?
自分のことを山おじちゃんだなんて。自分のことを普通そう言うか?
っていうか、この部屋少し暑いんだけど。
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