好きをいう前に君の声は風になる

第十話

「最近会ってなかったから心配してたよ。変わらず循環器内?」
「そう。悠仁くんも、変わらずあそこ?」
「そうだよー!イかれた患者が多くてもう〜大変」
「耳鼻咽喉大変ってよく言うよね」
こんな佐野さん見たことない。
声が少し高くなっていた。
小林先生は、両手を白衣に突っ込んでいた。
「あ、空音ちゃんごめんね。じゃあまたね!」
佐野さんは車椅子を押しながら部屋に行こうとした。私は小林先生の方を見ると、手を振っていた。
「空音ちゃんまたねー!」
私はコクリと頷いた。


ガラガラガラ


「すみません、遅れました」
「どうやら楽しそうな声がしたんだが」
「小林先生と話してました」
「小林と?」
「はい」
先生は、小林先生のことを知っているようだった。私は驚きながら先生の顔を見上げた。
「どうした?」
先生は少し怒ったような表情をしていた。
「いや、何でもないです」
私はそう返答するしかできなかった。
先生はなぜか、耳鼻咽喉科に勤めている小林先生のことを知っていたし。そして、佐野さんも小林先生と知り合いのようだった。


小林悠仁先生。


二人とどんな関係なんだろう。
ぼーっと考えていると、佐野さんが目線を合わせて話しかけてきた。
「それじゃあ、撮るからここに寝転がってね」
私は、いつの間にかCT台の目の前にいた。考え事をしてまうと周りが見えなくなってしまうとは、まさにこのこと。
「分かりました」
私は軽くなった身体を持ち上げて、CT台に乗った。私は、この検査が大っ嫌いだ。なぜかって?寝心地の悪さがピカイチだから。
しかし、検査は日常不可欠。生死に関わる診断が出るかもしれないしね。
私はCT台に寝転がり、ただひたすら天井を見つめた。
「そのまま動かないでいてね」
私は佐野さんに向かって頷いた。


ガチャン


佐野さんは部屋を出ていってしまった。
CT室は、私一人となってしまった。視線を少し下に下げると、先生と佐野さんが向かいの部屋にいるの見えた。


ピーーー


少しずつ台が動き出した。この検査はつまらない。長くてただ寝転がっているだけだから。こんなことするなら、別のことをしていたい。
この検査が終わったら、何しよっかな。
中庭のいつものベンチに座って漫画を描こっと。あ、でもその前にご飯食べなきゃ。もうお腹ペッコペコ。今日の朝ごはんは何かなー。いつもみたいに和食かな。
次第にCT台が進み、ドーナツ状の中に入った。天井が見えなくなった。低くて、怖かった。


ピーーー


また変な音がした。
私はこの音が大嫌い。
やっと終わったか!と安堵した。徐々に視界に天井が映し出された。ここの病院の天井は、やはりなぜか安心する。


ガチャン


「お疲れ様〜起きていいよ」
佐野さんが部屋に入ってきた。
私は自分の身体を起こした。そして一度、背伸びをした。
「うわぁ〜!疲れた」
「疲れるよね。今検査結果出してるから先に病室戻ろっか」
「了解です」
「立てる?」
佐野さんの腕にしがみつきながら部屋の外にある車椅子まで歩いた。
「よいしょっと」
もはや車椅子なしじゃ歩けない。一歩を踏み出そうとすると、もう片方の足に力が入らなくて前に進めない。
「おっけ。動くよ〜」
佐野さんは車椅子を押し始めた。
「お疲れ様」
パソコンの前に座る先生に、軽く会釈をした。CT室の扉を開けて部屋を後にした。


ガチャン


検査結果に何か異常があったらどうしよう。私は病室に戻っている途中、途端に怖くなった。
「佐野さんは、小林先生と知り合いなの?」
別に特別気になってわけではない。私の中の恐怖心を消し飛ばすために聞いたまで。
「そう。私が研修医時代の時からのね。もともと小林先生、朝倉先生、私が同期で一緒に研修したんだ〜」
佐野さんはゆっくりと話しながら車椅子を押した。


ピンポーン


「私と小林先生は元々同じ学校で授業とか受けてたの。そこにここの現場で出会った朝倉先生が加わって、よく3人で飲みに行ってたりしてた」
「そうだったんだ」
私は自分で聞いたのにも関わらず、あっさりとした返答しかできなかった。
どんなに話をふっかけようが、どんなに話の話題を考えようが、気持ちはそう簡単には変わらない。
「検査の結果っていつ出るんですか」
「今日中には出るよ」
しかし、改めて感じる回復のなさ。ここ一年、回復した瞬間が一度でもあれば、私は生きる希望を捨てなかったのに。
生きたいと思う方が間違いなのかもしれない。そう、思うようになってきちゃった。
多数が生きたいと思っているから自分も生きたいと思うのかもしれない。多数の人が死にたいと思えば、自分も死にたくなる。多くの人はそれを決めれる権利を持っている。ほぼ義務に近い。
しかし、ごく一部の人間には、そんな権利すら与えられない人がいる。それが、私みたいな不運な人間。
最初から生きる希望なんて与えられない。それは誰が決めるとかじゃない、もう運なの。
私は生きたいなんて強く思ったことない。
早く死んで生まれ変わって、鳥にでもなりたい。


ピンポーン


「少し揺れまーす」
考え事をしている間に4階に着いた。
「そういえば、お父さんに連絡して来てもらうことになったから」
佐野さんの一言に、私は硬直してしまった。
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