好きをいう前に君の声は風になる

第九話

「え?あ、あぁ、ええと.....」
私は咄嗟に言葉が出なかった。急に見知らぬ医師から声をかけられて、咄嗟に言葉が出る方がおかしいと思うけどね。
「あ!もしかして置いてかれちゃった?」
はぁ?全然そんなんじゃないし。
ただの検査だし。
何なのこの人。ちょっと失礼なんじゃない?
「そんなんじゃないです。今から検査です」
「そうなんだ〜。俺暇だから一緒にいよっか?こんなところで一人の方がいやでしょ?」
「別に」
「そっか〜」
その医師は、隣のソファに座った。まるでずっといたみたいに。
「俺、小林悠仁こばやしゆうじん。そこで働いてる」
小林先生は、耳鼻咽喉科の部屋を指差した。
「そうなんですね」
「君は?」
「白夜、空音です」
「白夜そらね、いい名前つけてもらったね。白夜なんて珍しいね!”そらね”は漢字はどうやって書くの?」
「青空の空に、音色の音です」
小林先生は大きな声で、かわいい〜!と言った。そのせいで、余計に視線を集めてしまった。この人と一緒にいるくらいなら、一人で恥ずかしがった方がマシだと思った。
私は自分でも驚くほど、言葉がたくさん出てきた。
「小林先生のゆうじん?どんな漢字ですか?」
「えっとね、こう書くの」
小林先生は胸ポケットから紙とペンを取り出して、そこに綺麗な字を書いた。


“悠仁”と、書いた。


「どんな意味があるんですか?」
「あぁ〜何だっけな」
小林先生は少し考えてから、言った。
「悠仁の”悠”は、『広い心』って意味で、悠仁の”仁”は、『人を思いやる』って意味。二つ合わせて『包容力があり、人を大切にする人物』って意味......って、なんか恥ずかしいな」
「......」
反応に困った。
けど、お世辞なしにも、本当に素敵な由来だと思った。初対面で話して、こんなにも会話が続いて楽しいと思えるのは、彼が初めてだったと思う。


ガラガラガラ


「白夜さん準備できましたよ.....って、悠仁くん?」
部屋から佐野さんがやってきた。
「お!佐野ちゃん!久しぶりだねー!」
小林先生は立ち上がった。
気づかなかった。そういえばこの人、身長高いんだった。
私を置いてけぼりにしつつ、二人は仲良く話し始めた。
佐野さんはずっと、耳が赤かった。
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