死なないで
留置所での面会の手順は思っていたよりも大変だった。

私たちは鈴木原氏の身内ではないため、余計にチェックが厳しかった。

それでも何とか会う手筈を整えることができた。

実際に会うことができたのは事件から1週間ほどたった頃だった。

面会室はドラマで見るようなものとほとんど変わらなかった。

私たちは案内されるままに椅子に座り、鈴木原氏がやってくるのを待った。

そっと要が私の手を握った。私も握り返した。

ガラスの向こうのドアが開き鈴木原氏が警察官に付き添われてやってきた。

そのまま警察官に促され私たちの前の椅子に腰掛けた。

鈴木原氏は殺人を犯したとは思えないほど爽やかな表情をしていた。

「あなたたちは誰ですか?」

鈴木原氏は私たちを見て言った。

「あなたは松村海汰を知っていますか?」

真っ直ぐに鈴木原氏の目を見つめながら言った。

鈴木原氏の瞳が微かに揺れた。

「僕は海汰の兄です」

要が真っ直ぐに言った。

「兄?海汰くんの?」

「はい」

「松村海汰くんを僕は知っています。僕と同じように丹原に監禁されていました」

要の表情が曇った。

「でも、ある日突然いなくなったんです」

「どこへ行ったか知っていますか?」

私は食い気味で尋ねた。

「いいえ。知りません。でも心当たりはあります」

「どこですか?」

要が珍しく声を荒らげた。

警察官が咳払いをする。

無言の圧力を感じた。

「すみません。それで、心当たりというのは」

要がもう一度聞き直した。

「1度外に出られたら何をしたいか聞いたことがあるんです。そうしたら海汰くんは海に行きたいって言ってました。友達とそう約束したからって。だから海汰くんは海の近くにいるんじゃないですかね」

鈴木原氏は俯いた。

泣いているようだった。

「僕、海汰くんに助けられてたんです。海汰くんが丹原から何度も僕を庇ってくれました。丹原はそれが気に入らなくて海汰くんだけ解放したんだと思います。海汰くんがいなくなって、僕は耐えられなくなって丹原を殺したんです」

鈴木原氏は泣きすぎて声が出せないようだった。

絞り出すようにして話し続けた。

「僕が丹原を殺せたのは海汰くんのお陰です。自分のした事に後悔なんてしていません。もし、」

鈴木原氏が涙を拭った。

「もし海汰くんに会ったら伝えてください。もう一度会いたいって。お礼を言いたい。会いに来てと」

鈴木原氏は泣きながら笑っていた。

「必ず伝えます」

要は鈴木原氏を真っ直ぐ見つめて言った。

「時間です」

警察官はそう言い鈴木原氏を連れて行った。

私達も面会室を後にした。

外はちょうど夕方になっていた。
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