忘れないまま恋をした
春の柔らかい風の中を、私はゆっくり歩いている。

隣には、直哉。

当たり前みたいに並んで歩くその距離が、もう自然になった。

「遅れるぞ、奥さん」

からかうみたいに言う声。

私は小さく睨む。

「誰のせいよ、旦那さん」

左手の薬指が、きらりと光る。

新しい姓で呼ばれる生活にも、もう慣れた。
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