忘れないまま恋をした
でも時々、ふと立ち止まる瞬間がある。

桜が舞うとき。

救急車の音を聞いたとき。

春の匂いを吸い込んだとき。

あの人を思い出す。

消えたわけじゃない。

消したわでもない。

ただ、時間の中で静かに、あたたかい場所へ移っただけ。

「どうした?」

直哉が私の視線を追う。

「ううん。ちょっと、春だなって」

そう言って笑う。
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