忘れないまま恋をした
夫婦になっても、場所は病室だった。
消毒液の匂い。
カーテン越しの光。
規則正しく鳴る機械音。
それが、私たちの日常。
「奥さん」
「なに、旦那さん」
小さな声で呼び合って、笑う。
指先だけ触れ合う。
それだけで、ちゃんと“夫婦”だった。
未来の話もした。
旅行のこと。
同じ大学を歩くこと。
退院したらどんな家に住むか。
叶わないと、どこかでわかっていた未来。
それでも話した。
話している間だけは、
病室の白い天井が、青空に変わる気がしたから。
「いつか一緒に大学歩こうな」
その約束が、私の支えになった。