Show Time!
Episode:Two ✩ 大切な双子
普段、影と戦う際に身に付けていた戦闘服を纏い、出掛ける準備を済ませたアスカを出迎えたのは、気まずそうな顔をしたペリドットの瞳を持つ2人の少女達だった。
片方の少女は金髪をリボンで2つに結っていて、意志の強そうな目付きをしていた。もう片方の少女はふわりとウェーブがかった銀髪が肩上で切りそろえられていて、メガネの奥の瞳はどこか控えめだった。
「えっ、と……おはようございます、アスカ先輩」
「おはよう…ございます」
マリとミリは視線を泳がせながら頭を下げる。
目に見えて緊張している様子に苦笑すると、アスカは柔らかく2人の肩に手を置いた。
彼女たちこそ冬路家の現当主、双子のマリとミリだ。冬路家は、幹部の中でもリーダー的立ち位置の一族で、星導家の魔法師を補佐することが役割だ。
年はアスカより1つ下であり、彼女のことを姉のように慕っている。アスカにとってかけがえのない存在である。
この2人には感謝してもしきれないほどの恩がある。なにしろアスカが壊れてしまいそうになった時、自分達にはアスカが必要だと励ましてくれたのは、他でもない、この双子なのだから。
彼女たちとて、先の事件で父親を失っている。
それに加え、自宅から支援していた母親も敵の影響か意識を失っており、未だ目覚めていない。
そんな不安定な状況下で、彼女らは冬路家の当主として、アスカを支え守る役目をまっとうしている。
「そんなに怖がらないで。もう怒っていないから」
暖かい声色に、双子はゆっくりと顔を上げる。
金髪と銀髪という対象的な髪色をした2人だが、表情の作り方はとても似ている。
普段はあまり似ているとは感じないのに、感情が揺れるタイミングは同じなのだろう。
そう考えるとなんだか微笑ましくなってしまい、アスカは控えめに笑みを零す。
その様子に安心したのか、マリはすぐ笑顔になり困ったように眉を下げた。
「本当にすみませんでした。でも、朝のアスカ先輩、めちゃめちゃ怖かったんですよ…!」
隣でミリが激しく頷いているあたり、遠巻きでも分かるほどの迫力だったのだろう。
意識して怖い態度をとったわけではなかったので、アスカは羞恥をまぎらわすために、わざと足早に歩き出した。
慌てて追いかけた双子の表情は、もう先程の緊張が見る影もないほど暖かなものになっていた。
ふと疑問に思ったのか、マリは高い位置で結んだツインテールを揺らしながらアスカの視界に入る。
「そういえば今日、歳創(トシゾウ)おじ様はいらっしゃらないんですか?」
「えぇ。───湊ノ家のおじい様と口論になってしまいそうだから、と。……あちらのことは、サクヤに任せるそうよ」
サクヤの話題は、アスカにとってあまり口にはしたくない話題だ。話すほど、彼に全てを打ち明けたくなってしまうから。
マリもそれがわかっているからか、これ以上この話題を続けることはしなかった。
「そういえば───」
双子に問いたいことがありアスカが口を開いた瞬間、頭上に影が差した。
「「アスカ先輩っ!!!」」
双子の声が響くと同時、アスカはミリに腕を引かれ後ろ手に庇われた。
マリは素早く防御魔法を展開すると、飛んできた“なにか”を弾いた。
2人の過剰とも取れる反応に、アスカは気付かれないように唇を噛む。
本来であれば、自分が彼女たちを守らなければいけない立場にあるのに。
何より彼女たちの行動が、今のアスカに防御の手段がないことを、色濃く表していた。
「「アスカ先輩!大丈夫ですか…!?」」
綺麗なユニゾンを響かせる双子に、アスカは苦笑混じりの感謝を伝える。
飛んできたのはサッカーボールだったようで、公園で遊んでいたらしい少年が、小走りで駆け寄ってきた。
「ごめんなさい!怪我してませんか!?」
アスカはボールを拾うと、少年と目線を合わせた。
相手に怪我を負わせてしまうことを恐れたのか、泣きそうに歪められた顔を見て、アスカは安心させるようにボールを差し出した。
「私は大丈夫よ。でも危ないから、周りにはちゃんと注意して遊んでね」
にっこりと微笑むと、少年は深々とお辞儀をして戻って行った。
そんな無邪気に遊ぶ子供たちが、昔の自分達と重なってしまって、アスカは無意識のうちに顔を曇らせた。それに気付いた双子は、どう声をかけるべきか顔を見合わせる。彼女達は、1番近くでアスカを支えているのだ。だからこそ、アスカがサクヤと会えないことがどれだけ彼女の心に暗い影を落としているのか分かっていた。
アスカは過去を振り払うように軽く頭を振ると、双子に向けて、先程の問いを続けた。
「そういえば2人とも、宝石のストックはまだ大丈夫?」
双子はハッと目を合わせると、揃って首を振った。
魔法や魔術には様々な種類が存在するが、星導家や冬路家が得意とするのは、宝石を媒体とした魔法だ。
簡単な魔法───例えば、ロウソクに火を灯したり、コップに水を注ぐなどであれば、媒体を介さなくても安定して魔法を使うことが出来る。
宝石を媒体として使うのは、もっと高度な魔法を発動する、或いは自分が苦手な魔法を使う場合である。
だから宝石魔法を使うことは“苦手が多い”と認識されがちだが、それは過ちだ。
アスカの宝石魔法を見れば、その考えは覆る。
彼女の魔法は、宝石を使うことでその魔法の威力を2倍にも3倍にも膨れあがらせる。
元々宝石を使うことには“安定した魔力供給を可能にし、暴走させずに高い魔力を注ぐことが出来るようになる”というメリットがあるからだ。
ところで、先程から『宝石』という言葉を使っているが、正確には宝石魔法に使用する石は所謂辞書に載っているような鉱物とは違う。似た見た目のものがあれば、鉱物の名前を使うこともあるが、魔式界隈で知られている『宝石』とは、自然界で時間をかけてゆっくりと生成された、朝露やそよ風、木漏れ日などが結晶化したものだ。見た目は鉱物の宝石と酷似しているが、決定的な違いは“魔力を含んでいるか否か”ということである。
普段人間が生活しているこの世界には、微弱にだが魔力が漂っている。それは花や水など様々な物質から生じたものであり、決して純度が高い訳では無い。しかし、宝石はその魔力を含んだ空気から1つの魔力を吸収することが出来る。
そうすることで、宝石に多様な色が付くのだ。
ちなみに影が人間を狙うのは、人間が最も純度が高い魔力を生み出すことができる存在だから、だと言われている。
ともかく、宝石魔法は上手く使えば高度な魔法を発動することも出来る、優秀な手段ということだ。
「じゃあ、帰りに燐灰宝石店(リンカイ ホウセキテン)に寄っていきましょう」
その特殊な宝石を専門に扱っているのが、アスカも贔屓にしている『燐灰宝石店』である。
特殊な合図を使う事で辿り着ける、秘密の店。
お店を営んでいるのは、見た目はアスカや双子とさほど変わらない少女だ。
その変化に乏しい表情と抑揚のない声色が相まって、この町の七不思議『機械仕掛けの人形がいる宝石店』として有名になってしまっている。
どこからこんな噂話が漏れたのかは分からないが、あながち間違いでは無いのが面白いところである。
アスカの提案に、双子は笑顔で答えた。
しかしその表情に、僅かにではあるものの影が落ちていることを、アスカは見逃さない。
何故なら、アスカ自身もわかっていたから。
もしかしたら、早くは帰れないかもしれないということを。
なにせ、今日の議題はアスカに関することで、しばらくの間見逃されていた事柄なのだから。