冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

憎悪に潜む悪

内乱の果てに滅亡した小国エルバ。

その国はかつて金で魔法使いを雇ったとルーメンから聞いた。

滅亡に導いたとはどういう意味なのか。

ヒストリアはベルナルドの推察が何を根拠にしているのか分からなかった。

するとルーメンが当然のようにヒストリアの手を掴むと顔を近づけ招待状の匂いを嗅いだ。

「なるほど……香か。ベルナルド王太子殿下はこれを気にしたのか」

納得した様子で発した言葉には緊張が孕んでいる。静かな瞳は揺れており疑惑を拭うように零した。

「あぁ。だがそれだけで推測したわけではない。他にもロイドが見落とした暗号が含まれていたんだろう」

ラキュウス辺境伯は再び書簡に目を落とした。しかしオリハルト公爵は根拠とする部分をどうやら明記していなかったようだ。

ヒストリアは招待状を読み解く必要があると考え再び字を辿ってゆく。

シェリル王女を通してエリザベートが伝えようとしている内容が他にもあるのは確かだ。

なぜなら、添え書き自体がやや長い気がする。

二通の招待状は自然を装ってか字数もほとんど変わらないが、やけに丁寧に綴られており、やはり伝えたい内容が入っている故だと思わざるを得ない。

「ねぇ。なんて書いてあるの?」

ふとユリアンがヒストリアに訊いた。

「簡単な文章じゃないと読めないの……」

困ったように言うのでヒストリアは手紙内容を読み上げてみることにした。

後に続く手紙は、要約するとこう書かれている。

『夢にまで見た婚姻なのでどうか祝って欲しい。爵位に関係なくロイドは素晴らしい方。二人を認めぬ非難の声は自分の耳にまで届き、まるで覚めることのない悪夢に取り憑かれたような苦悶の日々だ。王太子不在の今、大司教と国王の希望で自分は婚姻後に王太女として王位継承をする。どうか後ろ盾となり、この愛の行方を見守って欲しい』

「……影響力を持つ公爵家に対し、後ろ盾の要求をしているわね。そしてオリハルト公爵への脅しも」

ヒストリアは読み終えたあと零した。

「悪夢……覚めることのない悪夢だよ」

ユリアンが声を震わせ呟いた。

「夢を見たの……ロイドがわたし達を人間に戻してくれて、家に帰れる夢……だからロイドに初めて会ったときにこの人は良い人だって思っちゃった」

「でも実際は違った」

ヒストリアが言えばユリアンは深く頷いた。

「きっとあれは幻だった」

ユリアンとロイドの出会いすら用意されていたという事だろうか。

ルーメンを見遣ると横顔に苦悶の色を浮かべていた。

そして苦々しく告げる。

「考えたくなかったが……あいつが本当に来ているというなら、エリザベートはもっと危険な場所にいる」

ヒストリアは眉根を寄せ掌を握りしめる。

「誰がいるっていうの?」

「人々を翻弄し国の破滅に快楽を見出す悪辣な魔法使いだ……」

それまで黙っていたラキュウス辺境伯はその表情に露骨な嫌悪を滲ませて言う。

「……セシルを陥れた幻覚魔法の使い手だな」
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