冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
崩壊を止めるために
――その魔法使いはいつから生きているのか分からない。
様々な国に干渉しては人々の中に潜む疑念や憎悪を助長させる。
悪質なのは、それらを遊びのように愉しんでいることだ。
神出鬼没で快楽主義の悪魔。
性別すらもまやかしで、本来の姿は誰にも分からない。
実際にその魔法使いを見た事がある者の証言をまとめると、おそらく幻覚魔法を使う事は確かなようで、ルーメンは「二枚舌の悪魔だ」と吐き捨てた。
それからラキュウス辺境伯は言った。
「神殿にも都合のいいことを吹き込み、ロイドを祭り上げさせ国家反逆を助長させたのだろう」
――つまりロイドもまた、その魔法使いの道具の一つでしかないということか。
ヒストリアは美しく噛み合う簒奪劇に喩えようのない恐怖を覚え、その瞳は揺れた。
一方で隣に佇むユリアンは沈黙し、重厚な絨毯が敷き詰められる足元を見つめている。
「裏を返せば、あちらの陣営の繋がりは非常に脆いとも言えよう」
ラキュウス辺境伯は指摘すると、神殿がロイドとシェリル王女の結婚を支持しロイドの王族入りを歓迎するのは別の狙いもあると言う。
「そうですね。ロイドを傀儡とし国を影から操れるとでも吹き込まれたか……実際にユリアンの洗脳をヒストリアは解いていますから」
ルーメンの視線は二人に注がれた。
「大聖女……」
今は抹消された印があった左手を庇い、ヒストリアは呟いた。
聖女は魔法使いの対極の存在というのなら、効果を打ち消す可能性はある。
大聖女だから洗脳を解けたのか、ヒストリアだから解けたのか真偽は不明だが、王宮には大聖女イクシスが居る。
神殿は彼女を使ってロイドを言いなりに出来ると考えているのかもしれない。
そしておそらくは……ロイドはそれを知らない。
ラキュウス辺境伯は結論付けるように言った。
「結果として神殿はロイドの暴挙を許した。この罪は重い……よってロイドが王族に名を連ねる前に彼らを糾弾する。婚礼の儀で貴族や民衆が集まる場がいいだろう」
重々しい言葉だった。
しかしヒストリアの胸中には不安があった。
「……幻覚の魔法使いはどうするのですか?」
問えばラキュウス辺境伯は眉を顰めた。
「あれを仕留めるのは難しいだろう。我々の最大の目的は神殿とロイドを抑え、罪を暴くことにある」
「しかし……野放しにしても良いのでしょうか?」
「ヒストリア嬢。元凶は奴だが、我々が今抱えている問題はそこではない。違うか?」
厳しい口調で問われヒストリアは俯き口をつぐんだ。
「ヒストリア。捕縛出来ればそれに越したことはないが、絶対条件として頭に入れる必要はないということだ」
補足するようにルーメンが言った。
確かにラキュウス辺境伯の言い分は正しいのかもしれない。
だが捕えなければまた狙われるのではないだろうか。
とはいえヒストリアに何か策があるわけでもなく、逡巡したのち吐息を零し視線を上げた。
「……仰る通りです」
一瞬、その横顔に懐疑的な視線がルーメンによって注がれたが、ヒストリアがそれに気付くことはなかった。
ルーメンもまたそれ以上にヒストリアを問うことはなく、ラキュウス辺境伯に向かって告げた。
「でしたらまず、ロイドによって国王殺害が行われたことを証明するものが必要ですね……証人だけでは言い逃れも可能性です。更に神殿との繋がりとなると、やはり物証なしでは尚更難しいかと……」
たとえユリアンが証言したとして、立場は魔法使いだ。
差別的な存在とされる者の証言だけでは返って逆効果だろう。
かと言ってエリザベートに事の顛末を詳らかに語らせようが、やはり決定打となる物的な証拠がなければ言い逃れが可能だ。
しかもロイドがまだ証拠を握っているとは考えにくい。
考え込むヒストリア達の空気は重く、ラキュウス辺境伯の執務室には沈黙が広がっていた。
「……ロイドの証拠、あるよ……」
ふと、これまで黙っていたユリアンが口を開いた。
様々な国に干渉しては人々の中に潜む疑念や憎悪を助長させる。
悪質なのは、それらを遊びのように愉しんでいることだ。
神出鬼没で快楽主義の悪魔。
性別すらもまやかしで、本来の姿は誰にも分からない。
実際にその魔法使いを見た事がある者の証言をまとめると、おそらく幻覚魔法を使う事は確かなようで、ルーメンは「二枚舌の悪魔だ」と吐き捨てた。
それからラキュウス辺境伯は言った。
「神殿にも都合のいいことを吹き込み、ロイドを祭り上げさせ国家反逆を助長させたのだろう」
――つまりロイドもまた、その魔法使いの道具の一つでしかないということか。
ヒストリアは美しく噛み合う簒奪劇に喩えようのない恐怖を覚え、その瞳は揺れた。
一方で隣に佇むユリアンは沈黙し、重厚な絨毯が敷き詰められる足元を見つめている。
「裏を返せば、あちらの陣営の繋がりは非常に脆いとも言えよう」
ラキュウス辺境伯は指摘すると、神殿がロイドとシェリル王女の結婚を支持しロイドの王族入りを歓迎するのは別の狙いもあると言う。
「そうですね。ロイドを傀儡とし国を影から操れるとでも吹き込まれたか……実際にユリアンの洗脳をヒストリアは解いていますから」
ルーメンの視線は二人に注がれた。
「大聖女……」
今は抹消された印があった左手を庇い、ヒストリアは呟いた。
聖女は魔法使いの対極の存在というのなら、効果を打ち消す可能性はある。
大聖女だから洗脳を解けたのか、ヒストリアだから解けたのか真偽は不明だが、王宮には大聖女イクシスが居る。
神殿は彼女を使ってロイドを言いなりに出来ると考えているのかもしれない。
そしておそらくは……ロイドはそれを知らない。
ラキュウス辺境伯は結論付けるように言った。
「結果として神殿はロイドの暴挙を許した。この罪は重い……よってロイドが王族に名を連ねる前に彼らを糾弾する。婚礼の儀で貴族や民衆が集まる場がいいだろう」
重々しい言葉だった。
しかしヒストリアの胸中には不安があった。
「……幻覚の魔法使いはどうするのですか?」
問えばラキュウス辺境伯は眉を顰めた。
「あれを仕留めるのは難しいだろう。我々の最大の目的は神殿とロイドを抑え、罪を暴くことにある」
「しかし……野放しにしても良いのでしょうか?」
「ヒストリア嬢。元凶は奴だが、我々が今抱えている問題はそこではない。違うか?」
厳しい口調で問われヒストリアは俯き口をつぐんだ。
「ヒストリア。捕縛出来ればそれに越したことはないが、絶対条件として頭に入れる必要はないということだ」
補足するようにルーメンが言った。
確かにラキュウス辺境伯の言い分は正しいのかもしれない。
だが捕えなければまた狙われるのではないだろうか。
とはいえヒストリアに何か策があるわけでもなく、逡巡したのち吐息を零し視線を上げた。
「……仰る通りです」
一瞬、その横顔に懐疑的な視線がルーメンによって注がれたが、ヒストリアがそれに気付くことはなかった。
ルーメンもまたそれ以上にヒストリアを問うことはなく、ラキュウス辺境伯に向かって告げた。
「でしたらまず、ロイドによって国王殺害が行われたことを証明するものが必要ですね……証人だけでは言い逃れも可能性です。更に神殿との繋がりとなると、やはり物証なしでは尚更難しいかと……」
たとえユリアンが証言したとして、立場は魔法使いだ。
差別的な存在とされる者の証言だけでは返って逆効果だろう。
かと言ってエリザベートに事の顛末を詳らかに語らせようが、やはり決定打となる物的な証拠がなければ言い逃れが可能だ。
しかもロイドがまだ証拠を握っているとは考えにくい。
考え込むヒストリア達の空気は重く、ラキュウス辺境伯の執務室には沈黙が広がっていた。
「……ロイドの証拠、あるよ……」
ふと、これまで黙っていたユリアンが口を開いた。