冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
貴族の子女らを中心とした選定の儀式、その儀式でハリスは死んだ。
儀式の最中に現れた異形の怪物。
瘴気溜まりから発生したであろうその怪物から聖女と貴族の娘達を守り殉職したのだ。
ハリスが庇った娘達の中にレナードの妹もいた。
突然の大型の怪物の出現に聖女は対応出来ず、騎士らが迎え撃ったが負傷したハリスは自分を犠牲に避難の時間を身を挺して確保したのだ。
今になって思えばあれは単に使い捨てられたようにも思う。
教師からは、儀式は中堅の上級聖女が同行し結界の外に出て聖力を確かめるといった趣旨で、怪物に襲われる危険と隣り合わせなど知らなかった。
ハリーの死は受け入れがたいものだったが、国を守るために必要な犠牲もあるのだと言われ納得した。ふりをした。
正直な気持ちはこうだ。
――こんなことをしなければ聖女の力を確かめられないのか……。
ハリーだけでなく、これまでも数多の犠牲をもってして生まれた聖女をラキュウスは改めて国の宝だと認識するようになり、時が経ちレナードの妹が上級聖女に選ばれたと聞いた日には喜んだ。
だが正式に神殿に勤めるようになって、レナードの妹は家族へ連絡を寄越さないようになる。
聖女の勤めは忙しいゆえに疎遠になるのも仕方がないというのは共通の認識だったが、嫌な予感がし、それは的中する。
ある時、二人は聖女が使い捨てられることを知ったのだ。
――未来の聖女を守ってハリスが死んだ意味はなんだ?
――上級聖女になれると喜んでいたレナードの妹の気持ちは?
二人とも使い捨てられたのだ。
知ってしまった聖女制度の闇に疑念を抱かずにはいられなかった。
だが制度を変える力がラキュウス達にはなかった。
ならば、混乱を避けるためにも隠し通したまま原因を断つしかない。
瘴気さえ消えれば……。
異界に繋がる門さえ閉じてしまえば。
これが、ラキュウスの瘴気に対する執着の原点である。
「閣下、まもなく合流地点です」
日は傾き、緋色の空が紺碧へと変わる前の淡く燻んだ空気を感じる頃合いだった。
ここまで問題はなく、むしろ想定よりも早い到着である。
夜が更けた頃に急襲するのに丁度いいが、……ラキュウスは視線を周囲に向け見渡した。
すると、葉の擦れる音と共に一人の男が現れた。
出立前にヒストリアから確認を得た情報の通り、体躯の良い隻腕の男だった。
簡易的な礼を示す姿にラキュウスは訊ねる。
「――お前がベリルか?そちらの仲間は?」
「離れた場所で待機させています」
至極冷静な声音だった。
まずは自ら値踏みにでも来たというところか。
協力する意思は使者より預かっていたが、最終的なところは実際見てから判断を下すつもりだったのだろう。
顔を合わせて感じ取れる空気という物がある。
物怖じすることなく現れたベリルにラキュウスは目を細めると告げた。
「私がラキュウスだ。確認するが、こちらの要請に応じたということでよいのだな?」
ベリルはラキュウスの姿を舐めるように見たのち、間を置くと口を開いた。
「……そうですね。内部の造りはどの地区も似たようなものとの事ですので、うちのゼノという元神殿騎士が案内いたします」
「……分かった。その者を紹介してくれ」
「承知しました、こちらです」
言ってベリルは踵を返す。
その背中にラキュウスは声をかける。
「それとベリル。畏まらなくて良い。本作戦に限り、普段通り話せ。平民が遜る物言いをするのは連携に不向きだ」
命令するとベリルは立ち止まり、微かな吐息が溢したかと思えばこちらに視線を流し口角を持ち上げた。
「そうか……それなら、お気遣いどうも辺境伯様」
瞬間、隣に騎乗したまま控えていたレナードが声をあげる。
「貴様、良いと言ったが少しはっ……」
「レナード。私が言ったのだ。楽に話して構わぬ」
言葉を制し嗜められたレナードは納得のいかない表情だったが、ラキュウスはそれを無視してベリルの後に続く。
「辺境伯、歩きながら共有する……ここの神殿は警備も手薄で怠慢なやつが多かったが、既に刷新されている。ヒストリアの連行失敗で変えたようだ」
先導するベリルの表情は見えないが、どこか喜色を孕んでおり、何が面白いのかラキュウスには理解が出来ない。
しかも聞かされた情報は想定内。
――こんなものか。
期待外れに失笑したが、しかし続く言葉は衝撃のものだった。
「それにヒストリアを襲撃した男もいる。……あれは敵の魔法使いとは違うのか?」
儀式の最中に現れた異形の怪物。
瘴気溜まりから発生したであろうその怪物から聖女と貴族の娘達を守り殉職したのだ。
ハリスが庇った娘達の中にレナードの妹もいた。
突然の大型の怪物の出現に聖女は対応出来ず、騎士らが迎え撃ったが負傷したハリスは自分を犠牲に避難の時間を身を挺して確保したのだ。
今になって思えばあれは単に使い捨てられたようにも思う。
教師からは、儀式は中堅の上級聖女が同行し結界の外に出て聖力を確かめるといった趣旨で、怪物に襲われる危険と隣り合わせなど知らなかった。
ハリーの死は受け入れがたいものだったが、国を守るために必要な犠牲もあるのだと言われ納得した。ふりをした。
正直な気持ちはこうだ。
――こんなことをしなければ聖女の力を確かめられないのか……。
ハリーだけでなく、これまでも数多の犠牲をもってして生まれた聖女をラキュウスは改めて国の宝だと認識するようになり、時が経ちレナードの妹が上級聖女に選ばれたと聞いた日には喜んだ。
だが正式に神殿に勤めるようになって、レナードの妹は家族へ連絡を寄越さないようになる。
聖女の勤めは忙しいゆえに疎遠になるのも仕方がないというのは共通の認識だったが、嫌な予感がし、それは的中する。
ある時、二人は聖女が使い捨てられることを知ったのだ。
――未来の聖女を守ってハリスが死んだ意味はなんだ?
――上級聖女になれると喜んでいたレナードの妹の気持ちは?
二人とも使い捨てられたのだ。
知ってしまった聖女制度の闇に疑念を抱かずにはいられなかった。
だが制度を変える力がラキュウス達にはなかった。
ならば、混乱を避けるためにも隠し通したまま原因を断つしかない。
瘴気さえ消えれば……。
異界に繋がる門さえ閉じてしまえば。
これが、ラキュウスの瘴気に対する執着の原点である。
「閣下、まもなく合流地点です」
日は傾き、緋色の空が紺碧へと変わる前の淡く燻んだ空気を感じる頃合いだった。
ここまで問題はなく、むしろ想定よりも早い到着である。
夜が更けた頃に急襲するのに丁度いいが、……ラキュウスは視線を周囲に向け見渡した。
すると、葉の擦れる音と共に一人の男が現れた。
出立前にヒストリアから確認を得た情報の通り、体躯の良い隻腕の男だった。
簡易的な礼を示す姿にラキュウスは訊ねる。
「――お前がベリルか?そちらの仲間は?」
「離れた場所で待機させています」
至極冷静な声音だった。
まずは自ら値踏みにでも来たというところか。
協力する意思は使者より預かっていたが、最終的なところは実際見てから判断を下すつもりだったのだろう。
顔を合わせて感じ取れる空気という物がある。
物怖じすることなく現れたベリルにラキュウスは目を細めると告げた。
「私がラキュウスだ。確認するが、こちらの要請に応じたということでよいのだな?」
ベリルはラキュウスの姿を舐めるように見たのち、間を置くと口を開いた。
「……そうですね。内部の造りはどの地区も似たようなものとの事ですので、うちのゼノという元神殿騎士が案内いたします」
「……分かった。その者を紹介してくれ」
「承知しました、こちらです」
言ってベリルは踵を返す。
その背中にラキュウスは声をかける。
「それとベリル。畏まらなくて良い。本作戦に限り、普段通り話せ。平民が遜る物言いをするのは連携に不向きだ」
命令するとベリルは立ち止まり、微かな吐息が溢したかと思えばこちらに視線を流し口角を持ち上げた。
「そうか……それなら、お気遣いどうも辺境伯様」
瞬間、隣に騎乗したまま控えていたレナードが声をあげる。
「貴様、良いと言ったが少しはっ……」
「レナード。私が言ったのだ。楽に話して構わぬ」
言葉を制し嗜められたレナードは納得のいかない表情だったが、ラキュウスはそれを無視してベリルの後に続く。
「辺境伯、歩きながら共有する……ここの神殿は警備も手薄で怠慢なやつが多かったが、既に刷新されている。ヒストリアの連行失敗で変えたようだ」
先導するベリルの表情は見えないが、どこか喜色を孕んでおり、何が面白いのかラキュウスには理解が出来ない。
しかも聞かされた情報は想定内。
――こんなものか。
期待外れに失笑したが、しかし続く言葉は衝撃のものだった。
「それにヒストリアを襲撃した男もいる。……あれは敵の魔法使いとは違うのか?」