冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

神殿急襲

「幻覚を使う魔法使いが居るんだろ?」

ベリルは一度だけラキュウスに視線を向けて言った。瞬間、怖いと言われがちな自身の表情が無意識に強張ったのを感じる。

使者に伝えさせたのは、聖女の廃棄に関する証拠の奪取に関して助力を求める内容だった。

魔法使いの存在などの背景は伏せていたはずだが、ベリルは既にその存在を認知しているらしい。

情報源予想はついたが、ラキュウスは眉を顰め問いかけた。

「まだ伝えていないはずだが」

「ヒストリアからだ。神殿が寝返って姉が危険だかなんだか、まぁご丁寧にいろいろ書いてあった。手紙は燃やしたから安心しろよ」

やはり若者というのは勝手が過ぎる。

共有する必要があれば合流後に直接話すつもりだったが、ヒストリアの先走った行為に、やはり手紙の内容を検閲すべきだったという考えが過り、溜息が零れた。

「まったく……――――それで、何を根拠に魔法使いがここに居ると?」

無事に届いたのでよしとするしかないが、結局他に何が書かれてあったのか……燃やしたとなればラキュウスは知るすべがない。

紛失や盗難などリスクを鑑みればベリルの取った行動は正しいのだが。


「あんたらの到着までに、神殿の騎士とヒストリアを襲撃した男が揃って浄化石を奪いに来た。返り討ちにしたが……問題はそれよりも前に襲撃者の男の死体が見つかってんだよ」

「なに?」

「死んだはずの男が生きているのはおかしい……だが死体は俺が直接見たわけじゃねぇ」

ベリルが言うには、地区の人間が偶然見つけたのだという。発見した人間はその死体の男と食堂兼娼館のボラフ亭で一悶着あった相手だったので覚えていたらしい。

報告を受けベリルは現場を確認しに行ったが、しかし既に死体は消えていたという。

「だが、手紙を読んで納得したぜ」
「本人を殺して、なりすましていた。と言いたいのか?」

「あぁ。それもヒストリアを襲撃した時点で既に入れ替わってるはずだ」

ラキュウスは手綱を軽く引き、進行を止めるとベリルの背に問う。

「なぜ分かる?」

ベリルはラキュウスに身体を向けて冷静に告げた。

「利き足が違った」

勿体ぶるわけでもなく至って普通に答えただけだったが、ラキュウスの中で一瞬過った言葉を同じように考えたのであろう、斜め後ろのレナードから固い声が上がった。

「それだけか?」
「あぁ。だが重要なことだ」

レナードは気に入らないようだが、ラキュウスは整然と視線を向けたまま逡巡したのち口角を僅かに持ち上げた。

「……お前の考えを話してみよ」

「単純な話だ。ルーメンの家の建築作業。あれに参加した雇人を管理していたのは俺だが、そのうちの一人だった。よく覚えてるぜ」

ベリル曰く、その男は何の目的か娼館の女を気前良く買う男だったという。

新参者だった男がちやほやされれば先に居ついた連中はいい気がしない。そのうち気に入らないという人間が言いがかりをつけ殴る蹴るの喧嘩に発展したらしい。

まさに、襲撃前夜のことだ。
ベリルはその様子を眺めていた。

その応酬は互角で、ただの男同士の喧嘩といった感じだったが、蹴るも殴るも左が先に出ていたという。

「左利きだったが奴が襲撃時には右脚で俺の腹を蹴ってきた。普通、咄嗟に使うのは慣れてる方だろ?些細な事だが、死体まで出てくりゃな……」

その指摘に、ラキュウスは悪くない推論だと考えた。

ただし、もし魔法使いなら、襲撃時になぜ魔法を使わなかったのか疑問が残るが。

それはベリルも同意していたが、しかし死体の話が本当なら、別の人間が居るというのは確かで、不穏な可能性が出てきた今、ラキュウスは後続を見遣り考えた。

既に戻ってきていたユリアンだ。
ローブを纏う少女と目が合い、その大きな黄金色の双眸が不思議そうに何度か瞬く。

「――彼女を隠す。ヒストリア以上に命を狙われる可能性が高い」

ルーメン達の話によれば、襲撃者の男は撤退時にヒストリアよりも優先してユリアンの命を奪いにきたという。

レナードに視線向けて告げると普段仏頂面の顔がさらに険しくなった。

「閣下、その男の発言を信用するのですか?」

「最悪を想定して動くことが、なにより重要だ」

ユリアンの報告では国王らの遺体は無事に回収できたという。

目的の半分はすでに達成されているが、むしろ最も必要となるのは証拠の押収後。
時間短縮の移動手段としてユリアンは必要不可欠だ。

加えて幻覚の魔法使いの実力が計り知れない。
万が一にも再び捉えられロイドの元へ連れていかれては厄介だ。

擬態対象の力を引き出す魔法はラキュウス達にとっても脅威になり得る。

重要な局面までは隠すべきだろう。

「合流後に兵を休ませる。その間に証拠の押収方法について話し合いたい」



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