冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――ラキュウスは神官長を見下ろすと声を低くし告げた。

「大人しく吐けば手荒な真似はしない」

神官長はラキュウスの冷徹な視線に慄き、土で汚れたローブを引き摺り尻餅をついたまま後退る。

「浄化石は、その……大司教様の命でして、私にはなんとも……っ」

たどたどしい物言いだった。
しかし引き攣った表情に迷いの色が混じるのをラキュウスは見逃さなかった。

情報を漏らした後と今目の前の制裁、どうやらこの男は知らぬ存ぜぬを選ぼうとしている。

それを良しとするわけがなく、長い脚で距離を詰め片足で神官長の手首を砕くように踏みつけた。

「ぎ、ぁああ゛っ!!!」

「命までは取らない。口がきけなくなると困るからな。ひとまずこのまま指を詰めてみるか?」

剣を垂直にし、踏みつけたことで大きく開いた指に狙いを定める。

「い゛っ……言います!お話ししますっ……イクシス様の聖力が弱体化しているからでございますっ……」

神官長が吐き出した言葉は大聖女の権威を揺るがす内容だった。
大聖女の力が消えるなど聞いたことがない。

ラキュウスは瞼を閉じ、神官長の言葉を咀嚼するように理解を落とし込んでは吐息を零す。

「……大聖女の弱体化か。しかしそれは、浄化石が”今”必要な理由にはなっていないが」

手首を踏みつけていた足にぐっと力を込めた。
すると神官長は呻いたのち、弾かれたように続けた。

「ひぃ゛っ…!!大司教様が、……大聖女には聖者の力を相殺する力があると……しかし今のイクシス様では到底無理でして、……ならば浄化石があればと……っ!」

それから薄い口は一息に神殿の真意を吐き出した。

「っ、……こんなことを知りたがるのなら、王宮の出来事もご存じなのでしょう!?王女の結婚にも反対されておりましたし、どうか誤解なさらないでください。我々は同志なのですよ、閣下!!魔法使いを統べる聖者ロイドの脅威に対抗すべくっ、イクシス様に御していただくために!!浄化石を回収したい所存でして……っ!!」

「なるほど、理解した」

自分の身可愛さに全て吐き出した神官長にラキュウスは浅い笑みを落とした。
何故この男だけ人事を変えなかったのか、分かったような気がしたのだ。

派遣するにあたり神職の人間に有能な人材が乏しいのだろう。神官は聖騎士と違って訓練されていないのは勿論だが、昇進にはとにかく金と権力。

腐敗した迎合主義の集まりだと聞く。

ラキュウスは手首から足を退かすと視線を上げ、周囲を見渡した。

「使い物にならないと決め込んだヒストリア嬢が大聖女の力を発揮したのは貴様らにとって予想外だったのだろう。そしてロイドを抑える手掛かりとなる彼女を掌握出来ないと分かり、浄化石だけでも支配下にあるイクシス様の元へ納めようと考えたわけだな」

神殿は大聖女を、国の守護者達を道具としか考えていない。
そこに携わる者達も彼らにとってみれば道具の一つに過ぎないのだろう。

ゼノのようなまともな思考の人間を排除し、神殿の意思に迎合し私欲を満たさんとする者だけを留まらせる。

おそらく王族すらも、国を機能させるための旗印としか見ていない。

「そのような言い方は……これはすべて国のためでございますっ!聖者を御するためでしてっ……そうです、魔法使いとロイドを共に制しましょう閣下!」

手首を庇いながら神官長は猫撫で声でラキュウスに擦り寄る。

その男を無視して、ラキュウスは違和感を確信し周囲を警戒する。

先ほどから続く視線の正体は、まだ出てこないのか。
焦ったに苛立ちを覚え始めたその時……。


「なるほど……確かにそれはロイド様に知られては困る。こそこそとドブネズミが何をしているかと思えば……」

ふっと、長身の男がラキュウス達の前に現れ、神官長は声を上げた。

「いったい今まで何をしていたっ、お前のような傭兵に対価は払わんからなっ!」

男を目の前にして神官長は声を荒げた。
しかし男は飄々とした調子でラキュウス達の周りをゆっくりと歩く。

「いやぁ、援護しましたよ。しかし辺境伯の私兵はブレなかった。よほど練兵されている」

神官長は傭兵と言ったが、ベリルの言っていた特徴と類似している、魔法使いの可能性が高い襲撃者の男だった。

そして男は徐に神官長に向かって手をかざすと青い光を撃った。
それは一瞬の出来事で、光が頭を包んだかと思えば神官長はどさりと倒れた。

「さすが欲深い。実に欲深く短絡的だ。面白いものを見せてもらった……潜んでいた甲斐があったということよ」

そして男の姿は霞がかったように消えて、代わりにローブ姿の老齢の男がそこにいた。

やはり魔法使いだったのだ。
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