冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――ヒストリアはルーメンの声に弾かれたように双眸を開いた。
血を流し倒れる騎士の他に、布が巻き付き気絶している者など様々だが、危機が去ったことが分かると、ずかずかと令嬢らしからぬ動きでルーメンに詰め寄った。

「ルーメン……!エリザベートを説得しろなんて言ってたけれど、あなた本当はここで私達を囮にしたんじゃないの!?到底辿り着きっこなかったわ!」

ベルナルドがヒストリアを守ろうと背後からくる神殿騎士に剣を振りかざしたところまでは覚えているが、それ以降は祈りに集中していたため記憶がない。

そして祈りの中で、何かの結び目を解いたような僅かな感触を覚えあと、ルーメンの声が聞こえたのだ。
ほっとしたが、同時に腹が立った。

敵の襲撃は視野にいれていたが、しかしヒストリアがルーメン不在のままエリザベートのところまでたどり着くには少々難があるような気がしたのだ。

「……いや。状況次第でもう少し健闘出来たと俺は思うが」
「本当かしら?」
「本当だ。俺は君に嘘はつかない。ただ予想より敵が多かった」

淡々と告げる言葉に眉を顰め、ルーメンの瞳を見遣る。
どうやら本音のようだが、過信し過ぎではないだろうか。

そのような疑問を感じながら溜息を零せば、ルーメンは徐にヒストリアの左手を握った。
指先が触れるのは以前ヒストリアがルーメンに命じて口付けさせた場所だった。

「それに追いつくと言っただろう。怒っているのか?」

普段は冷めた黄金色の瞳が、初めてヒストリアの機嫌を窺うように見つめてくる。
ずるい。

「っ……違うわよ。ちゃんと来てくれたから、安心しただけ……」

本当に、ただそれだけで、皆が無事だったことに安堵し、そして少し文句を言いたくなっただけなのだ。
ヒストリアは耳が赤くなるのを感じながらルーメンの手を払うと周りを見遣る。

ベルナルドもオリハルト公爵も兵士もみなが無事で本当に良かった。
そしてアリアの洗脳が解けた実感もあった。
ユリアンの洗脳を解いた時よりも一段と力が安定し、自信がついてきている。

すると唐突に会議室へ続く階段の方から足音がした。
コツコツと響くそれは男性のものではない。

ベルナルドとオリハルト公爵らが身構え、ヒストリアもまた緊張の息を呑んだ。

「誰だ?」

ルーメンが問う。
そこに現れたのは、涼やかな銀糸が真っ直ぐ垂れる儚げな女性の姿。

「……ヒストリア……あなたなの……?」

足音の主は、エリザベートだった。
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