冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――ヒストリアとルーメンはエリザベートの供述を元に王宮内部の神殿へ向かっていた。
ベルナルド達はエリザベートの誘導でシェリル王女に接触する手筈だ。

エリザベート曰く、幻覚の魔法使いは明日の婚礼の儀にまで戻ると告げて王宮を出たという。
その目的地はディート地区という話だが目的は不明。しかしエリザベートの推察では神殿に関係しているという。

実際、エリザベート自身もロイドから神殿に不審な動きがあれば報告するよう言われていたらしい。
やはり敵は一枚岩でない。
そして探知魔法が消えている今ならば、実質この王宮の脅威はロイドと神殿側の人間ということになる。

ロイドが再びアリアに探知を再開させる前に、先に合流しなければならない。

神殿は王宮の中央に存在し、城の中で一番豪奢な建造物である。
入口から王宮へと繋がる大きな道が一本存在し、その周りには小さな白い石がいくつも敷き詰められており、その中にはよく見ると聖石も混じっている。

そして厳かな雰囲気を漂わせるそれらを、さらに青々とした美しい芝が囲っていた。
ヒストリアは何度も足を運んだこの神殿を、柱の物陰から見つめながら呟いた。

「ここに幻覚を使う魔法使いが居なかったのは幸運ね……」

「そうとも言えない。ラキュウス辺境伯らの邪魔をされかねないからな……それに明日までに戻る算段があるという点も気になる」

ルーメンは神殿の入口を警備する騎士らを確認しながら言った。

「そんな……」
「だが今はとにかくアリアが優先だ。人の位置を知ることが出来るというのは厄介だからな」

足元の何かに触れながらルーメンは騎士達を見据えながら唱えると、蔦が延びて二人の騎士を襲った。蔦が幾重にも巻き付き口許をふさぎ騎士らは呻く。

「芝であんなことが出来るの……」
「いや。あぁいった類の雑草は見えないようでどこにでもあるからな」

拘束した姿を確認するとヒストリアはルーメンの背を追って中へ侵入した。
地下、といったエリザベートの言葉は正しく、騎士らの目を盗み地下へ繋がる道を降りてゆけば、アリアの姿があった。

牢の中でぐったりと憔悴して座り込んでいる。
その姿はヒストリアの知る赤い髪色ではなく、今はルーメンやユリアンと同じ色。

ユリアンの姉だというアリアは人の気配に視線を上げた。
そして僅かに瞳に光を宿し、鉄格子の向こう側で、掠れた声で呟く。

「……ルーメン……、ヒストリア様……?」

「いま助ける」

ルーメンはローブから小瓶を取り出すと赤い液体を鉄格子にかけた。

「それは?」
「ワインだ。鉄を腐食させる効果がある。これを魔法で加速する……」

ルーメンが手を翳せば、ワインは甘い香りから一気に酸味の強い異臭を放つ。
じわじわとワインをかけられた場所の鉄格子は色が変わってゆく。

ルーメンはそこを脚で蹴ると脆く崩れた。
同じ作業を繰り返し、徐々に人が通れるほどの穴が開いてゆく。

アリアは安堵した表情を浮かべたが、すぐにヒストリア達に問いかけた。

「ユリアンは……?あの子は無事なの?」

妹の安否に眉尻を歪めるアリアにヒストリアは声を和らげ頷いた。

「……えぇ。一緒に戦ってくれてるわ。今はロイドと神殿を糾弾するための証拠を運びにルキリュ領に居るはずよ」

しかし、アリアはヒストリアの言葉に青ざめた。
いや、実際には地下牢に響く足音に対し青ざめていたのだ。

緊張が走り、ルーメンの横顔が険しいものとなる。

「逃げて……」

アリアの弱弱しい声は扉を開く音でかき消された。

すかさずルーメンが落ちていた鉄格子の一部を掴んだが、それよりも先に狭い地下牢に聞き慣れた声が響く。


「シリウス・オッド・アルタイル。お前の主人は僕だ。その二人を捕らえろ」


ロイドの言葉にルーメンが固まり、攻撃の手が止まる。
魔法で風圧をつけながら飛ぶはずだった鉄格子は、床に落ち金属音が響く。


「……ユリアンに記憶を吐き出させてから、ずっと愉しみにしていたんだ。隣国の王子様を思いのまま操れる。僕に相応しい優秀な手駒じゃないか」
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