冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――その直後、神殿騎士が一人、騒々しくロイドの元へ現れた。
「ロイド様、衛兵が不審な動きを……」

片膝をついて報告する男は、下級貴族の男だったか。
見覚えのある顔は神妙な面持ちで告げる発言にロイドは眉根を寄せた。

「……なにをしているというんだ?」

「ワインを運んでおります。本日使用する来賓用のものでなく、エリザベート様からの差し入れとのことですが……そのような指示はロイド様から聞き及んでなかったため、確認しにまいりました」

「よく報告してくれた」

一瞬、時間が止まったような錯覚に陥る。

軽い頭痛すら覚えたが、しかし表に出さぬよう穏やかな笑みを向ければ、騎士は褒められた犬のように頬を上気させたあと顎を引き頭を下げる。

不快な感情が胸中を占め、エリザベートの言葉を思い出す。

『やりすぎよ』

やはりあれは本音だったのだ。

「……私を疑うよりも先に尋問された方がいい方が出てきましたねぇ」

背後で粘着質な声が響き、ロイドは踵を返して神殿へ足を向け歩みを進めた。

そして進みながら頭の中で様々な憶測が飛び交う。
裏切ったのか。ワインになにか仕込んだのか。
まさかヒストリアを助ける?いや、二人に姉妹の絆などないはず。

しかもシリウスを取り上げた今、出来ることなど何もない。
妙な真似をするのはエリザベートの独断か。
神殿騎士を連れてきた時のように一人で戦うつもりなのか。

あの女はいつだって一人だった。

……一体、何が目的なんだ。


「――ロイド。私を探しているのではなくて?」

意外にも、裏切りの可能性を背負った張本人は自らロイドの元へと現れた。
エリザベートを拘束し、一室に軟禁する。

「裏切るつもりか?」
「さぁ……」

しかしその答えは直ぐに届いた。
神殿を警備していた聖騎士らが眠りこけているというのだ。


「――――分かった。エリザベート、もう”なぜ僕を裏切ったか”は聞かないことにする。チャンスをやった事が間違っていたという結果は変わらないからな」

落胆した感情に蓋をし、声を震わせながらロイドはエリザベートを見下ろした。
手枷をつけその場に座り込む姿に鋭い視線を向けて。

しかしエリザベートは平静としており、ともするなら確認するように訪ねてきた。

「……ロイド、どうしてもこのまま進むつもりなの?」

ロイドは肩を上下させ長い呼吸を吐き出したあと、奥歯を噛みした。

「……お前に構っている暇はない」

「あなたの境遇は理解しているけれど、貴族を淘汰することが正しい事だと思えないわ。この国を崩したとしても、様々な枠組みの中で同じようなことが結局繰り返されるだけだとは思わないの?」

その言葉を紡ぐエリザベートにはやはり必死な様子はなかった。
懇願でもなく、諭すわけでもなく、ただロイドに訊ねていた。

ロイドはその瞳を見下ろしたあと重々しく口を開く。

「エリザベート。もうお前の言葉には惑わされない」

その時だ。

「――おぉ、空が……」

幻覚の魔法使いが窓の外を見遣り関心するように言った。
国に張り巡らされている結界。それが揺れたのだ。

ロイドは鋭い視線をエリザベートへ落とし呟く。

「たしかイクシス様はシェリル王女と居たな。他に結界に誰か触れたものがいる……ヒストリアか?あの出来損ないは何をするつもりだ……」

とにかく、神殿に向かわなければ。
顔を上げるとロイドは幻覚の魔法使いに告げた。

「……今からシェリル王女の部屋へ行く。軟禁したあとお前はユリアンを殺して来い」
「大丈夫ですか?私がこちらにいた方がよいのでは」

飄々と訊ね返す言葉に苛立ちが刺激され胃の気持ち悪さすら覚える。
黙って殺しにいけばいいものを。

「お前がとどめを刺さず、のこのこ逃げ帰った事の方が大問題だ。こっちの悪あがきはシリウスに対処させる……」

ロイドは顔を歪めると魔法使い向かって吐き捨てるように言った。

「……さようですか。意外とこういった選択が命運を分けるといいますが、本当によろしいので?」

「何度も言わせるな。ユリアンを近づけさせることの方が脅威だ」
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