冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――ロイドは憤っていた。
それは先ほど幻覚の魔法使いがもたらした情報を元に大司教を問い詰めたからでなく、もっとも身近な脅威に対してだ。

神殿の裏切りなど些末なこと。初めからロイドは信用していない。
それよりも、己につかず離れずつき纏い続けたこの老齢の男に対する疑念である。

信用に値するのか値踏みしていた相手は、肝心なことを後から吐き出した。

「ユリアンから逃げてきただと!?なぜ先に言わない」

「いやはや……変身の魔法を使う者は擬態に止まらず、その能力まで扱える非常に厄介な存在でしてな……私の幻覚魔法は応用したところであくまで思い込ませるもので、いうなれば所詮は下位互換。ドラゴン相手にまともにやりあうのは……ちと厳しいもので」

悪びれもせず至極楽観的な調子で紡がれる言葉に沸々と苛立ちが沸き上がる。

「言い訳は聞きたくない……くそ、ドラゴンが王都に来てみろ……婚礼の儀どころじゃなくなるだろうが!」

滞りなく儀式を済ませ、シェリル王女に立太させる。
王配という立場も子を成しシェリル王女を脅せば、実権は自分のものだ。

おそらく他の貴族からは、父ガスト・フランドールの人生を踏襲するかのような権威の握り方に似ていると言われるだろうが、実態は違う。女に迎合するのではなく、跪かせるのだ。

だというのに……――――あの時、殺しておくべきだったとロイドは悔やんだ。
逃亡したユリアンに罰を下したつもりだったが、洗脳が解かれている。

魔法使いは何がおかしいのかにやついた表情で両手を上げると宥めるように言った。

「森を彷徨わせることに成功しましたのでご安心を。暫くは森から抜けられないかと」
「は……それを聞いて僕が喜ぶとでも?遊んでるのかお前は……」

眇めた視線をやりながら、ロイドはふと思いついた。
今まで行き当らなかったその可能性に。


「……――いや、待てよ。そうか….あぁ、そうか…お前、……散々、人をその気にさせておいて……遊んでるな?本当のところは僕が破滅するのを見たいんだろう。お膳立てした奴が分不相応な夢を掴みかけて失敗する、違うか?」

ロイド自身には到底理解できないことだが、この魔法使いならばあり得るのかもしれない。

益のない行為。
野心と無縁。
なんら意味のない立ち回りは、遊んでいるとしか思えないのだ。

破綻しており、整合性がない。

ロイドは口端から微かな吐息を零すと悟った。
やはり信用できるのは洗脳した魔法使いだけだ。


「――まさか。私はこの通り、ロイド様を謀ろうとしていた神殿の動きをきっちり確認してきたのですよ……十分な仕事かと」

「それにしては随分のんびりしていたと思うがな……」

「結果的に役立たずの私よりも、優秀な魔法使いが手に入ったのですから良いではないですか」

侍らせているシリウスを指す言葉に虫唾が走り、ロイドは溜息を吐き出した。


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