冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
聖書と呼ばれる書物に視線を落とし、この世に生を成した人間ならば誰もが習う一節を指でなぞると、それから暫くして静かに本を閉じる。

聖書に記された後の歴史はこう続く。

聖女を旗印に人々が救済の歌を捧げ始めると瘴気を消す力を持った聖女が各地で誕生した。

そして彼女達は人々を守るため祈りの歌を天に捧げ続けた。
天は聖女の願いに応え、地に安寧をもたらし、世界は今、聖女達の加護によって平和が守られている、と。

けれどこの世は平和とは程遠い。
聖女の力で世界に再び平和がもたらされたと史実に記されているが、聖力が及ばぬ荒れ果てた地は数多に存在する。

瘴気に抵抗するには莫大な聖力が必要なのだ。

聖女そのものが希少な存在であるなか、大規模な広域浄化を可能とする大聖女と呼ばれる者は一国に一人誕生すれば奇跡と呼ばれるほどに稀有な存在で、聖印と呼ばれる印を手の甲に宿す。

この、瘴気を消滅させる力の強い大聖女を巡っては、各国がこぞって手中に収めんと対立を極め交易もままならい。国家間は緊張し、ある時は戦争へと発展した。

災禍に見舞われた時代でも、いや、だからこそなのか世界が結束することはなかった。

ある国は国家間の啀み合いを避け、平和を望んだが自国に大聖女が長期にわたって誕生しなかったため浄化が間に合わず瘴気に蝕まれ消滅していった。

混乱の世で他国へ手を差し伸べようと考える者はいなかった。

そうした排他的な時代は長く続いた。

大聖女が存在する国、または多くの聖女を囲う国は繁栄し、そうでない国は滅びてゆく。


嘆かわしいことだが、そんな世界も変わりつつある。

保守的思想の危険性にいち早く気づいた大国、シルドバーニュ。

この国の王、ベルナルドによって国家間での聖女の派遣が実現したのだ。


これから時代は一気に変わるだろう。


シルドバーニュ王国を主体とした瘴気対策と浄化技術普及の協定。

これらが運用され始めたのは昨今の話。

大聖女に頼りきらず結果を維持する革新的な方法が発案されたおかげで実現したのだ。

もはや古いしきたりは不要となるだろう。


これから紡がれるのは、今日に至るまでの、とある傲慢な聖女の物語だ。
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