冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――日が傾き、ルーメンが村に戻ると言い出した頃、扉を開けようとする音が聞こえた。
ルーメンは口元に指を立てる。二人は黙って様子を見ていれば、音は乱暴に扉をノックするものに変わり、その荒々しさからヒストリアはたじろぎ身を強張らせた。
「きっと君が生きているか確認しにきたんだろう。俺が代わりに相手をする。君は出てこないように。前にも言ったが、この扉は君が許可しない限り外からは開かない」
ルーメンから自分が賭けの対象にされていると教えられたのを思い出したヒストリアは顔を歪め静かに頷いた。平民は家畜……少なくとも扉を勝手に開けようとする者とは絶対に関わりたくない。
まだ立ち去る気配がない様子にルーメンは薄く扉を開いた。そして内側から相手を確認したあと、立ち塞がるように外に出ていく。その姿にヒストリアは扉の傍へ駆け寄ると耳を当てた。
「なぁーんだ男かよ。話と違うじゃねぇか」
「こいつぁアレだ、新入りだろ。なぁ女はどこだ?てめぇはお嬢様の騎士か?」
二人の男の声がする。
柄の悪い態度に臆することなくルーメンは淡々としていた。
「そんなところだが、なにか用か?」
「生存確認ってやつさ。酒場で噂になっててよ、都会のお嬢さんが追放されたんだろ?こんなとこで生きてられんのかってさ、賭けてんだ。元気ならついでにちょいと貸してくれねぇかなぁ?」
男達は卑下た笑い声をあげる。
ヒストリアは大きな眼を一層見開いた。
「んな硬い顔すんなよ。てめぇだって楽しんでんだろ?でなきゃ罪人の女なんかについてくるわけねぇよな?独り占めすんなって」
ひっ、と喉の奥が鳴った。
辱めの言葉に怒りを覚えるよりも先に頼れる相手が一人しかいない状況では恐怖の方が勝る。
ルーメンは魔法使いだが、その正体は隠したいはずだ。体格は手練れの騎士と違わぬほど立派ものだが、それはヒストリアの勝手なイメージで実際のところは分からない。この数日、一貫して冷静沈着なルーメンだったが何か考えがあるのだろうか、言葉遣いからして性根の悪さを感じさせる二人の野蛮な相手にどう対処するつもりなのか、耳をそば立てた。
「会わせられない」
ルーメンは静かに言った。
「はぁ?」
「てめぇ、新参者の立場ってのを分かってねぇなっ!」
苛々とした口調のあと、扉にドンっと大きな衝撃があった。
ヒストリアは驚いてその場に尻もちをつき、外にいるルーメンがどうなったのか気になるも声が出ない。
そこへ突如、唐突に怒声が響いた。
「おい!てめぇらっ!!」
低く、猛烈な怒気を孕んだその声に怯んだヒストリアだったが、どうやらそれはルーメンに絡んでいた二人も同じだったらしい。
「ベリルさんっ!?」
ひとりが名を呼び、乱入してきたのがベリルという人間であると分かる。どこかで聞いたことのある名が出てドキリとしたが、きっと偶然に決まってる。ヒストリアはそう思うことにした。
「な……なんだよ、ベリルさんか……別にいいじゃないですかぁ!」
途端に腰の低い態度を露わにした声が響き安堵する。ヒストリアは知っている。これは権力者に媚びを売る者の声音だ。ベリルは男達よりも格上の人間らしい、そのことが扉越しでも分かった。
「手ぇ出すなって言っただろうが、その耳は何のためについてんだ?あ?」
「いや、だって罪人の女だぜ?いつもなら何も言わねぇじゃないっすか……」
「おぉい!俺は、手ぇ出すなって言ったんだ。いつもと同じでいいかどうかは俺が判断する。そしててめぇらが納得したかどうかは関係ねぇ、俺が決めたことを守れ。簡単なことだろ?違うか?分かったらさっさと帰れ。溜まってるならボラフ亭にでも行ってこい!」
凄みを聞かせ紡がれる言葉に男二人はどうやら立ち去る気になったらしい。
ややあってからルーメンとベリルの声が聞こえた。
「……悪かった。怪我させちまったな。ここは娯楽が少ねえからいつもこうなる」
「いつもか……だがお前は助けた」
「そうだな。ヤり回されて死なれちゃ後味悪ぃだろ。それに俺はあんたに貸しを作っておきたい」
「貸し?逆じゃないか。お前の手下の所業はなかったことにしてやる」
「……なるほど。面白ぇ、いいぜ。そういう事にしておくか。あんたは他とは違った匂いがするからな……そこのお嬢さまによろしく、せいぜいラモーナでも食って元気になってくれ」
云って立ち去ってゆくであろう足音が聞こえた。
一体なんだったのだ。
まさか差し入れをしたのはベリルだったのか。はっとしてヒストリアは扉に視線を上げた。
応戦する気配のなかったルーメンも、ベリルの思惑もヒストリアには理解できなかった。
「……分からない、なんなの…なんなのよ……」
ルーメンは口元に指を立てる。二人は黙って様子を見ていれば、音は乱暴に扉をノックするものに変わり、その荒々しさからヒストリアはたじろぎ身を強張らせた。
「きっと君が生きているか確認しにきたんだろう。俺が代わりに相手をする。君は出てこないように。前にも言ったが、この扉は君が許可しない限り外からは開かない」
ルーメンから自分が賭けの対象にされていると教えられたのを思い出したヒストリアは顔を歪め静かに頷いた。平民は家畜……少なくとも扉を勝手に開けようとする者とは絶対に関わりたくない。
まだ立ち去る気配がない様子にルーメンは薄く扉を開いた。そして内側から相手を確認したあと、立ち塞がるように外に出ていく。その姿にヒストリアは扉の傍へ駆け寄ると耳を当てた。
「なぁーんだ男かよ。話と違うじゃねぇか」
「こいつぁアレだ、新入りだろ。なぁ女はどこだ?てめぇはお嬢様の騎士か?」
二人の男の声がする。
柄の悪い態度に臆することなくルーメンは淡々としていた。
「そんなところだが、なにか用か?」
「生存確認ってやつさ。酒場で噂になっててよ、都会のお嬢さんが追放されたんだろ?こんなとこで生きてられんのかってさ、賭けてんだ。元気ならついでにちょいと貸してくれねぇかなぁ?」
男達は卑下た笑い声をあげる。
ヒストリアは大きな眼を一層見開いた。
「んな硬い顔すんなよ。てめぇだって楽しんでんだろ?でなきゃ罪人の女なんかについてくるわけねぇよな?独り占めすんなって」
ひっ、と喉の奥が鳴った。
辱めの言葉に怒りを覚えるよりも先に頼れる相手が一人しかいない状況では恐怖の方が勝る。
ルーメンは魔法使いだが、その正体は隠したいはずだ。体格は手練れの騎士と違わぬほど立派ものだが、それはヒストリアの勝手なイメージで実際のところは分からない。この数日、一貫して冷静沈着なルーメンだったが何か考えがあるのだろうか、言葉遣いからして性根の悪さを感じさせる二人の野蛮な相手にどう対処するつもりなのか、耳をそば立てた。
「会わせられない」
ルーメンは静かに言った。
「はぁ?」
「てめぇ、新参者の立場ってのを分かってねぇなっ!」
苛々とした口調のあと、扉にドンっと大きな衝撃があった。
ヒストリアは驚いてその場に尻もちをつき、外にいるルーメンがどうなったのか気になるも声が出ない。
そこへ突如、唐突に怒声が響いた。
「おい!てめぇらっ!!」
低く、猛烈な怒気を孕んだその声に怯んだヒストリアだったが、どうやらそれはルーメンに絡んでいた二人も同じだったらしい。
「ベリルさんっ!?」
ひとりが名を呼び、乱入してきたのがベリルという人間であると分かる。どこかで聞いたことのある名が出てドキリとしたが、きっと偶然に決まってる。ヒストリアはそう思うことにした。
「な……なんだよ、ベリルさんか……別にいいじゃないですかぁ!」
途端に腰の低い態度を露わにした声が響き安堵する。ヒストリアは知っている。これは権力者に媚びを売る者の声音だ。ベリルは男達よりも格上の人間らしい、そのことが扉越しでも分かった。
「手ぇ出すなって言っただろうが、その耳は何のためについてんだ?あ?」
「いや、だって罪人の女だぜ?いつもなら何も言わねぇじゃないっすか……」
「おぉい!俺は、手ぇ出すなって言ったんだ。いつもと同じでいいかどうかは俺が判断する。そしててめぇらが納得したかどうかは関係ねぇ、俺が決めたことを守れ。簡単なことだろ?違うか?分かったらさっさと帰れ。溜まってるならボラフ亭にでも行ってこい!」
凄みを聞かせ紡がれる言葉に男二人はどうやら立ち去る気になったらしい。
ややあってからルーメンとベリルの声が聞こえた。
「……悪かった。怪我させちまったな。ここは娯楽が少ねえからいつもこうなる」
「いつもか……だがお前は助けた」
「そうだな。ヤり回されて死なれちゃ後味悪ぃだろ。それに俺はあんたに貸しを作っておきたい」
「貸し?逆じゃないか。お前の手下の所業はなかったことにしてやる」
「……なるほど。面白ぇ、いいぜ。そういう事にしておくか。あんたは他とは違った匂いがするからな……そこのお嬢さまによろしく、せいぜいラモーナでも食って元気になってくれ」
云って立ち去ってゆくであろう足音が聞こえた。
一体なんだったのだ。
まさか差し入れをしたのはベリルだったのか。はっとしてヒストリアは扉に視線を上げた。
応戦する気配のなかったルーメンも、ベリルの思惑もヒストリアには理解できなかった。
「……分からない、なんなの…なんなのよ……」