冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
それからの日々。建築資材が揃うまでの期間、ヒストリアは毎日訪れるルーメンと共に、食事をし、掃除や洗濯、そして皿洗いをするようになった。

生まれて初めての皿洗いは慣れない作業に何度も落とした。幸い、邸で使っているような陶磁器と違い、木製のため割れることはない。ヒストリアはこれまで皿は美しく磨かれていることが当たり前だと考えていた。万が一にも欠けを見つければ決まってこう言う。

「私になら見つからないと思ったの?馬鹿にしないでちょうだい!」
そして酷く責め立てたあとは扇子で頬を叩いた。
大聖女の印が出現してから、父のいないところで使用人から嫌がらせを受けるようになり、その度に姉が「嫉妬なのよ……ヒストリアにも私と同じ対応をするよう注意しておくわ」と庇うため、自分は嫌われていて姉だけが好かれているのだと信じていたのだ。
「お父様に遠慮せず、あなたが直接気持ちを伝えても良いのよ、だってただの令嬢じゃないもの。あなたは大聖女になるのだから威厳を持って対応していいの。ヒストリアを軽んじることなんて許されないわ」

そんな風に言われれば、姉の言い方が妙に気になって、自分は軽んじられていたのかと使用人に対して疑念を抱くようになった。そして相手を強く非難し、辞めさせることを学んだ。威厳を保つため、感情のままに扇子で初めて人を叩いた時は後悔したが、その腹いせか毒物をスープに仕込まれ、口にする前に気づいたヒストリアは怒り狂った。制裁として犯人と思われるメイドに毒を口にさせ、フランドール家から追放し、自分を軽んじる言動を察知すると全て跳ねつけるようになっていった。

それが日常になったころ、裏で姉が糸を引いていたと知る事になるのだが、その時にはもうどうしようもなかった。自分と姉の立場は固まっていたのだ。
『傲慢でヒステリックない妹と、女神のように慈悲深い姉』
ヒストリアにはどうすることも出来なくなっていた。これまでの自分の言動が作り上げたものは、姉の扇動で引き起こされたものと訴えるには説得力がまるでない状況だと、それぐらいは分かっていたのだ。
むしろ警戒心は高まり、全てが自分を陥れるための布石のように思え、軽んじられているような行動が見受けられれば、確かめることなく一方的に決めつけ強い威嚇行動に出た。

その一つが皿にも現れていたが、自分で洗って気づくことがある。使ったり洗っていれば欠けることがあってもおかしくないのだと。意図的かもしれないが、偶然だったのかもしれない、後者を鑑みる勇気を持てなかったことを今更ながらにヒストリアは悔いた。

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