冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――翌日、ルーメンが現れたのは、まだ空が白みはじめたばかりの肌寒さが辛い時間だった。

浅い眠りを何度も繰り返しベッドから出るのも再び眠りにつくのももどかしくなっていた頃、土が擦れる音が聞こえたのだ。

足音だと気付き、なんとなくそれがルーメンだと思ったが、足音の主はノックするわけでも声を掛けるでもなく突如止んだ。

「ルーメン?」

扉の向こうに問いかけると「起きていたのか?」と返事があった。

知っている声に安堵し開くと、扉の傍に腰を下ろしていたルーメンの姿があった。

「先に名を出して問いかけるのは良くないな。俺のふりをした偽物かもしれない」

そう言って立ち上がっては土を払った。

「そうね……気をつけるわ」

早朝の外気が鼻を掠め、そわそわとした気持ちで頷くと、ルーメンは軽く小首を傾ける。

「妙にしおらしいな」
「っ……、私だっていろいろと気づいたのよ……!」


部屋に迎え入れたあと、ヒストリアは息をつき続けた。


「真実がどうあれ、私は追放された罪人の女、そうでしょう……ここではたったひと呼吸するだけで、税金を払うように細心の注意を払い続けなきゃならない。だけど何をどう注意すればいいか分からないから……あんたが言ったことは、一応、忘れないようにしようと思ったのよ」

ヒストリアは長い夜の末に辿り着いた言葉を勢いで吐き出した。

自覚しなければいけない己の立場。
そして、唯一ヒストリア自身に価値を見出し、手を差し伸べてくれた人。


少なくとも自分の身を守るため”今“選ぶべきはルーメンなのだ。

その考えに至らしめた昨夜の出来事が脳裏によぎり、心臓が強く打ち響くのを身体の奥で感じる。
その不快感に俯き、勢い任せに訴えた。

「だから恐ろしかったのよ……!あんたは慰めもしないで出て行くし……」

思わず出た言葉は、本音だった。

またあの時のように『まさか慰めて欲しかったのか?』などと言われるかもしれない。
そう身構えたが、しかしルーメンはヒストリアの目の前に佇んだまま、虚を突かれたように戸惑いがちに眉根を寄せていた。

「……それは、悪かった。あの後のことだ、男の俺が同じ空間に居るのは嫌だろうと考えて配慮したつもりだったが、逆に君を不安にさせたのか……そうか……」

先ほどまでヒストリアの中にあった気恥ずかしさは、初めて見るルーメンの考え込む真剣な表情によって次第に鳴りをひそめてゆく。

ルーメンの考えは一見筋が通っているが、感情を考慮しているようで実のところ感情を挟んでいない。

そこには特別だとか例外だとか、そういったものがないのだ。
焦っていたことが馬鹿らしくなり、はぁ、と長い息をついた。

「……別に、もう良いわよ。あんたって意外とそういう情緒は鈍いのね」

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