冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
その去り際の言葉に引っ掛かりヒストリアは勢いよくルーメンを見上げた。
まさかそんなことはないと考えたが、一瞬過った妄想を確かめずにはいられなかったのだ。
思えばルーメンの類まれなる行動力はともかく、実行するには必要なものがある。
「ねぇ、ちょっと!特別料金って、資金はあるの?というかまさかお金まで作ってるとか、その、あんたの……」
言い淀んでしまうのは世話になっておいて、今さら非難めいた妄想をしたことに対しばつが悪いという考えがあったからだ。するとルーメンは軽く鼻で笑ったあと、動物を宥めるかの如く「落ち着け」と柔らかな声音で告げた。
「偽造なんてするわけないだろう。真っ当な金だ。隠す事でもないから言うが、ラキュウス辺境伯から出資してもらっている」
出資と聞いて安堵し肩を下ろしたものの、意外な人物の名が飛び出し困惑は隠せない。
「……、どういうこと?魔法使いは忌諱されているんでしょう?正体を隠して近づいたの?」
魔法使いは忌諱されていて、だから王宮の断罪の場でもヒストリアが魔法使いの色を示す髪色を発言した時ざわついたのだと考えれば、ラキュウス辺境伯も同様の警戒を示すものではないのだろうか。矢継ぎ早に問いを放つがルーメンは相変わらずだ。
ヒストリアを見下ろす視線は静かだった。
「あの人は他と違う。この国にある”聖女の力を測る装置”はラキュウス辺境伯が普及させたものだ」
その言葉にぴんとこないヒストリアに対しルーメンは続けた。
「シルドバーニュの神殿にある聖女の力を測る装置、それが普及するまで、聖女の力を確かめるため集められた子女は結界の外へ連れ出されていた。それがいかに危険か分かるか?ラキュウス辺境伯は聖女の選定の儀で犠牲者が出ないようにするために装置を作ったんだ」
ヒストリアの世代は当たり前に神殿で聖力の測定を行っていたが、ラキュウス辺境伯の時代は違ったらしい。
確かに、結界の外に出て祈りの歌を捧げることで聖力の有無から、その効力を測ったという一説があったかもしれない。遠い記憶の歴史の授業を思い出そうとしたがうろ覚えで、ルーメンの説明にはある種の新鮮さすら覚えた。
だがそれにしても、ヒストリアは考えを巡らせた。本当の話ならラキュウス辺境伯は英雄ではないのだろうか。脳裏に落ちる疑問に視線を彷徨わせ、無意識に言葉が溢れる。
「……なぜ変人なんて噂が……」
「彼の最終目的は異界の門を閉じることだ。そんなこと出来やしないと誰もが無謀と考えているが、彼は諦めていない。無論、俺もだ」
ルーメンは真剣な眼差しをしていた。そこには一切の揺らぎがない、強い決意を秘めている。
たしかにこれは無謀な妄言と一蹴されてしまうかもしれない。
「一度の成功で門を閉じるなどと豪語するのは驕りだと気を悪くする者もいた。恐ろしいことを考えていると糾弾する者も。まぁ、生まれてから当然のように存在していた環境を変えようなど、何が起きるか計り知れないからな」
ヒストリアはラキュウス辺境伯が変人呼ばわりされている一端が少しだけ分かった気がした。
この地に来る前のヒストリアなら、きっと彼らと同じように鼻で笑っていたことだろう。不可能に挑む気心を立派に思う一方で、どうしてそこまで確信できるのか理解ができないのは、むしろ当たり前の感覚のようにも思う。
変化を恐れる気持ちをよく知っていたヒストリアだったが、しかし、彼らの高潔な志に羨望の眼差しを送った。
「諦めなければ達成できると考えている。進んでさえいれば辿り着けない目的地などない。現にラキュウス辺境伯は測定装置を生み出し広めた。次は浄化の効率化だ。聖女の負担を減らすためのものだが、これらはすべて異界の門を閉じるために必要なことだ」
「意味があるのね」
「あぁ。辿らなければ得られない気付きというのがある。人は目的に対し一直線に進むことを選ぶが、活路は意外とその道じゃないことが多い」
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