冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
ヒストリアにとっての魔法使いはルーメンただ一人だ。それ以外の魔法使いを知らないが故に、己の中で魔法使いという概念がルーメンのような人物を描いていたことに気付く。
ルーメンは聡明で思慮深い。尊敬する一方で、まるで見聞きしたかの如く詳しい説明をすることに対しヒストリアはその情報源はどこから来ているのかとも疑念の眼差しを向けた。気軽に聞いていいものか迷っているうちに、ルーメンは立ち上がってしまう。
そして食事を作ると言うのでヒストリアは興味を移し、もう一度「私も手伝うわ」と申し出た。
以前は断られたが以外にも今回は受け入れられた。
「そうだな……そろそろ料理を始めるか。君は呑み込みがいい、すぐ慣れるだろう」
買い被っているのか、調子の乗せるつもりなのか、いつもエリザベートより要領が悪いと嘲られていたヒストリアには聞きなれない言葉が返ってきて思わず顔が赤らむの感じた。
「……当然よ。私を誰だと思っているの?」
袖を捲りながらルーメンの後を続く。すると突然、ふわりと白いものが被せられた。
「なに……!?」
「料理をするならエプロンが要るだろう」
柔らかな布がワンピースを纏ったのだ。たったそれだけのことだったが、父から初めてドレスを贈られた時のように気持ちが浮き立つ。あの時は本当にわくわくしたものだ。
エプロンごときにと自嘲する気持ちも存在する一方で、ルーメンにまたひとつ認められたような気がして嬉しいという気持ちが膨らむのも認めざるを得ない。
「どうした?顔が赤いな、……熱でもあるか」
おもむろに額に手を当てられ顔を覗き込まれた。今までになく至近距離で視線が重なった。大きな掌からはルーメンの体温を感じ、むず痒いほどに真剣な眼差しからは離れられない。
そして次の瞬間、端正な唇が持ち上がる。

「知恵熱じゃないようだ」

温もりは離れてゆく。名残惜しむ視線を隠すようにヒストリアは胸の前で腕を組み、顔を背けた。
「なによ、知恵熱だと思ったの!?失礼ね!ちょっと熱くなっただけ。きっと色々話したからだわ」
「――さて、今の君に刃物を持たせるのは心配だからタマネギでも剥いてもらおう」
ルーメンはなにもなかったかのようにして野菜を詰めていた麻袋から次々取り出していく。
その様子にヒストリアは気付いた。揶揄われたのだ。
ルーメンは聡明で思慮深い、だが堅物ではない。こういった一面があるのだ。そしてその時は決まって感情の読み辛い理知的な顔にひとつ、ほんの些細な変化だが小さな笑みが口許へと乗せられる。
「ちょっと!聞いてる?というかタマネギなんて手応えないから、ちゃんと教えなさいよ」
その日の食事作りはいつもより賑やかだった。

炊事場では二人の背中が小さく揺れており、まるで窓の外の曇り空の中に一筋の晴れ間があるかのように穏やかな空間が存在していた。

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