冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
元来、ヒストリアは明るく負けず嫌いだ。そして何より人と過ごすことを好む。それが孤立し、プライドばかり高く、誰もかれもが姉にかどわかされているのではないかと人を疑うことばかり増えて、心を許せなる相手が居なかった。だが今は違う。
「ねぇ、ここだけど……瘴気溜まりの発生は死体が関係しているとあるわ。このディート地区の国境付近の谷底は瘴気溜まりでしょう?つまり、沢山死体があると考えていいの?」
「あぁ。書物から現代の窮状に目が向くとは成長したな」
雨音が響く部屋で、木箱に腰を掛けるルーメンは深く頷いた。テーブルを挟んで向かいあうヒストリアは気付きを褒めてくれたことに気を良くして身を乗り出す。
「そうでしょう。私は視野が広いのよ」
「自分で言うのか?ならば視野が広い君に問題だ。なぜ死体は谷底にある?」
ヒストリアは考えを巡らせた。落ちて死んだのだろうが、その理由はなにか。なぜ大勢の人間が谷底へ落ちたのだろう。天災、または人為的なものか……だとすれば。一つの答えに辿り着く前に、ルーメンは聖書の終わりのページを開く。
「ヒントは、地図に隠れている」
聖書の最後には地図が載っている。その地図は瘴気が蔓延し始めた当時の地図で、今は滅亡した国も載っていた。
ルキリュ領のディート地区に隣接する国は小国であるエルバ国。ヒストリアにとっては瘴気によるものという認識止まりだ。エルバが隣接するのはシルドバーニュのルキリュ領の一部と、広大な砂漠地帯。それを見てもヒストリアの中で生まれた答えは変わらなかった。
「戦争かしら……」
「惜しい。大聖女を持つシルドバーニュを敵に回す事はあり得ない。国力に差がありすぎる」
「小さいからってこと?」
「いや、大聖女を排出する安定国家だからだ。大国といえど隣接する国が多ければ防衛拠点も増える。他国から同時に攻められる可能性も鑑みれば国力は一概に領土で決まるものじゃない。重要なのは大聖女だ」
「そう言われてみれば確かに……」
地図を見れば納得する。小国のエルバの何倍もの土地をシルドバーニュは持っているがそのぶん隣接する国が多い。領土が大きければ軍事力があるという図式でないことを納得し、戦争でないなら一体何かと、ルーメンの言葉を待った。
「起きたのは内紛だ。滅亡したエルバ国は、反体制派と激突したんだ。そして滅亡した」
「でもどうして谷底に瘴気溜まりが発生することになるのよ。なんでヒントが地図だったの?」
ますますヒストリアの中で疑問が生まれる。
「死なば諸共、という考えが招いた結果だ。エルバには奴隷制があり、シルドバーニュよりも階級に厳しい国だった。もともと格差社会から生まれる貧困問題を抱え国は揺れていたんだ。そんな時に瘴気問題が加わったのだから、内乱の予感は十分だっただろう……エルバで聖女は奴隷のような扱いだ。見つかれば強制徴収され、死ぬまで働かされる。シルドバーニュのような大聖女はおらず、貴重な聖女の捕獲に血眼になっていた」
「そんな……」
あまりの扱いの違いにヒストリアは言葉を失った。国が違えば聖女は搾取の対象だというのか。
「反体制派は奴隷や貧民層を先導し勢いがあったが、しかし国が金で雇った魔法使いには敵わなかった。そして窮地に立たされた反体制派の中心人物達は国を逃げシルドバーニュを目指すことにした」
「砂漠しかないから、シルドバーニュを目指したのね……」
「あぁ。砂漠は広大だからな。その計画を知った奴隷達は絶望し国の滅亡を望んだ。当然その国の聖女もだ……まるで呪いだが、誰もエルバから逃がさないよう、自分達の命を捧げ魔物化し、彼らは死を以てエルバを壊滅した。そういった歴史がある」
以前、ルーメンは聖力の力が大きいものが瘴気溜まりで死ぬと厄介だと言っていた。聖女達が国を恨み魔物化したというなら、その国の結末は必然なのかもしれない。
「そんな……辛いことが……」
呟く声は掠れていた。平穏なシルドバーニュとは無縁の出来事に衝撃を受けていたのだ。
「ーーまぁ、そういった国は珍しくない。むしろシルドバーニュこそ奇跡だ。ここは他国が羨む国、この国に生きる聖女は他と比べればまだいい」
はじめて世界に目を向け、ヒストリアはこの国で産まれたことが如何に幸せか理解した。だからと言って自分の身に起きた出来事が許せるわけではないのだが。
ふと、ルーメンの言葉を思い返し疑問が生まれる。
「ねぇ、魔法使いが国に味方したって、そういうことあるの?エルバは魔法使いに寛容だったのかしら?」
「いや、魔法使いは忌むべき存在というのが共通認識だ。しかしエルバも相当追い込まれていたんだろう。金を払って利用した。だが結局、翻弄した挙句に魔法使いには早々に手を引かれたようだ。いろいろ居るからな」
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