冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――宴会も終わり、皆が帰ったルーメンの家は夜の静けさに包まれていた。
新築の家は天井が高い実験用の広い部屋と、食卓や炊事場などの水回り、そして応接間も存在し、それとは別に個室が二つある。辺鄙な場所になかなかに立派なものを建てたものだ。
わざわざ応接間まで用意したということは、ラキュウス辺境伯が訪れる可能性があるということなのだろうか。ルーメンが浪費することは想像つきがたく、ヒストリアは推理するかのように考えた。勉強をはじめ、ルーメンと本の内容について語る時間を持つようになってから連想する癖がついていたのだ。
木の香りが漂う新しいテーブルを拭きながら考えていると、ふとルーメンがヒストリアに声を掛けた。
「ベリルに言ってた料理だが……君は一番に俺に食べて欲しいのか?」
唐突な質問にヒストリアは確認してきた意図が分からないまま頷いた。
「そりゃそうよ。当たり前じゃない」
しかし暫く返事がないので「……変なこと言ったかしら?」と振り返る。
「…………いや。食事は俺にとっては特別なものだからな。君の言葉を聞いて、少しうれしくなっただけだ」
ルーメンは背を向け皿を拭いていたようで、年上のこの男が、今どんな表情をしているかは分からない。だが、意外な言葉が出てきてなぜかドクドクと心臓が高鳴るのを感じた。
濡れた布巾をぎゅっと握りしめる。
ルーメンにとって食事は特別だと、思い入れのある行為なのだと知ったヒストリアは、もっとこの人を知りたいと願っていた。

そして冤罪という自分の身に起きた悲劇をルーメンの助手という存在価値で慰められるかもしれないと考え始めてすらいた。
しかし、人生を変えた因縁は断ち切れるはずなどなかったのだ。
その頃、王都のフランドール邸ではある報告が上がっていた。

――追放された公爵令嬢が、まだ生きていると。
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