冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――数日後、ルーメンの家は無事に完成した。

施工が終わり、ルーメンはさっそく建てた家で小規模の宴会を開いた。

雇人達に酒や肉が配られ皆がエールをあおる。ヒストリアはこの日のために覚えたシチューを作って彼らをもてなし、ルーメンから今は研究の助手をしていると彼らに紹介された。

ベリルが目を光らせているためか卑下た囃し立てもなく和やかに宴会は進む。

ルーメンはヒストリアが一人にならないよう傍を離れることがないので、大人数の男達の中でも臆することなくその場に居ることができた。

その中でベリルはスプーンを口に運び、しばらく黙っていた。
それからもう一口食べ、ヒストリアと視線が合うとふっと笑う。


「よぉ、セシルちゃん。助手とはなかなかの立場を得たもんだ……罪人の女が作ったにしちゃ、ずいぶん真っ当な味だな」

冗談めかして言いながら、ベリルはヒストリアを冷えた目で見た。
値踏みするような視線だったが、すぐにいつもの調子に戻る。

「料理が出来るとは意外だった」

「意外?失礼ね。彼に教えてもらったのよ……」

以前と比べれば平民と言葉を交わすことへの抵抗感は少なくなったが、相変わらずヒストリアからはそっけない言葉しか出てこない。

なにせヒストリアの対人関係はルーメンで止まっているのだ。

家で家事をするか読書をして学ぶかのどちらかなのでルーメン以外の人間とまともに会話をすることがない。
したい、という気持ちも湧かなかったが、しかし自立という目的を果たすのならいずれルーメンから村人との接触も促されるのだろうと頭のどこかで考える程度だったのだ。

おそらく、この竣工祝いの宴はそのきっかけだ。
ルーメンはヒストリアを助手として彼らに紹介した。
この場にいるのは十人そこそこだが、彼らが村に戻れば『罪人の女』の旬な情報はたちまち広められるだろう。

ここで心証を良くした方がいいと頭で分かっていたが、ヒストリアはまだルーメンに話すようにベリルへ返事をすることが出来ない。

「セシルは手先が器用だ。まだ包丁を持って日は浅いが指を怪我しないからな、注意力もあるということだろう。警戒心を持って取り組めるのはいい。俺の助手は優秀だ」

話を繋ぐつもりだったのか、流れるように横からヒストリアを褒める言葉が出てきたので、思わずルーメンを見上げ大きな声が出る。

「そういうのいいから!……まぁ、今はシチューぐらいしか作れないけど、他にも覚えるつもりよ」

するとベリルから快活な笑い声が上がった。おかげで肩の力が抜けヒストリアの表情も少し緩む。

「お勉強中か、それじゃ俺が新しく覚えた料理を味見してやるよ」
「なんであんたに?」
「感想は一人からもらうより二人からもらう方がいい。そして俺の腹も満たされる」

「料理が出来る人から評価をもらうだけで結構よ」
「俺も多少は出来るぜ?それにお前の身の安全を保障しているからな、保証料と思えばいいだろ?」

「ルーメンに恩を売りたいんじゃなかったの?」
「ルーメンにはな。お前からは新作料理の提供を求める。いいだろ?セシルちゃん。この研究者の兄ちゃんはお前のナイトかもしれないが、実務的には”俺が”お前を守ってやってるんだ」

あぁいえばこういう、とはこのことだろうか。

ベリルの冗談めかした押し問答に応えるヒストリアを、ルーメンは口を挟むことなく静かに見守っていた。

「分かったわよ!覚えたら、ね。でもルーメンが先!一番よ。感想聞いたら、次があんたね」

ベリルが本気かどうかヒストリアの知るところではないが、これだけは譲らないと指をさして当然のように告げた。

一人で出来るようになった料理はまずルーメンに食べてもらいたい。
子供のような発想かもしれないが一番最初に自分の成長を知って欲しいのはルーメンなのだ。


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