冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
第五章 証明するために
ここにいる証明
「……落ち着け、ヒストリア」
肯定の言葉を乞うように強く握り締めていると、冷静な声が頭上で響きルーメンの手がぴくりと動いた。
そしてその手はヒストリアの細い指を握り返す。
「……王都で何があった?」
いずれ話すと言ったまま未だ語ることのなかった自身の顛末を、ヒストリアはぽつぽつと吐き出してゆく。
事前連絡もなく夜明け前に叩き起こされ、王妃殺害未遂の疑惑をかけられて王宮へと連行されたこと。
ヒストリアの筆跡と寸分違わぬ手紙が毒の入手先とのやり取りの証拠として上がっていたこと。
毒物の運び屋の男が捕縛されており、ヒストリアとの面識を証言したこと。
それから、後になって繋がったフランドール邸での異変について。
父が道楽や女に入れ込み邸に戻らないことは度々あったが、一年ほど前から愛人となったウィラー夫人と共に別邸に引きこもり姿を見せなくなり、領地運営や人事の采配全てを義兄ロイドに任せ、後継人としての責務を放棄していたこと。
そしてヒストリニアに余計な情報を与えたメイドのアン。
「嵌められたのよ……多分、姉と義兄だわ」
「心当たりがあるんだな」
「……姉には嫌われていたし、義兄は今まで優しかったけれど、断罪の日に笑ってた……」
ヒストリアは断罪された日に見たロイドを思い出し、悪意がはっきりと込められた顔を脳裏に浮かべ忌々しげに眉根を寄せた。
「痛かったわ……聖印を焼かれて、無実を訴えたのに……おかしいでしょ、裁判すらなかったのよ……」
「………君の主張を誰も信じなかったと?」
そうだ。誰にも信じてもらえなかったのだ。胸の奥が引き裂かれるような思いでヒストリアは深く頷いた。涙が頬を伝い、瞼を深く瞼を閉じたあと、自嘲気味に吐息を零した。
「そういう風にしか見られない態度ばかりだったから、罰が当たったんだわ。違うって言っても証拠も捏造されていたし、私のせいだって決めつけられても仕方ないのよね……」
ヒストリアはもうずっと前から自覚していた。王都では嫌われ者だったと。
フランドールの邸の使用人達から扱い辛い令嬢と思われ、社交界でも遠巻きにされていた。大聖女と王太子の婚約者という立場故にあからさまなものはなかったが、ヒストリアの感情を逆撫でする事が起きて癇癪を起こすたびにエリザベートの株が上がっていた。
神殿すらヒストリアを持て余していた。
その状況を貴族達は固唾をのんで国がどう判断を下すか様子を窺っていたはずだ。
そして国は、ついに聖印があるだけの使い物にならない大聖女が過ちを犯したことで、お払い箱にする大義名分が出来た。
きっと姉達の思惑と国の事情が一致したのだ。
「……わたしは要らない大聖女だったから、皆に見捨てられた……」
被害妄想と思おうとした考えは、エリザベートが大聖女代理の地位を得たことで確信に変わり、予想以上に心を痛めつけてくる。
しかし、ヒストリアの決壊した感情をルーメンは遮った。
「それは違う。君を助けようとした人物がいたはずだ」
慰めでもなく、共感でもなく、荒唐無稽な言葉だった。
ヒストリアを助けようとした人間など王宮には居なかった。しかし淀みなくルーメンは否定した。
「どうしてそんなこと言えるの…?」
鼻を啜り視線を上げると真っすぐに注がれる視線とかち合った。
「君をあの家に運んだ日、部屋を見た。散乱していた木箱は比較的新しいものだった。なにか運び込まれていたんじゃないか。あれは……?」
「水や食料よ……王子の慈悲ですって……」
ヒストリアは口角を上げた。
それが一体何だというのか。
肯定の言葉を乞うように強く握り締めていると、冷静な声が頭上で響きルーメンの手がぴくりと動いた。
そしてその手はヒストリアの細い指を握り返す。
「……王都で何があった?」
いずれ話すと言ったまま未だ語ることのなかった自身の顛末を、ヒストリアはぽつぽつと吐き出してゆく。
事前連絡もなく夜明け前に叩き起こされ、王妃殺害未遂の疑惑をかけられて王宮へと連行されたこと。
ヒストリアの筆跡と寸分違わぬ手紙が毒の入手先とのやり取りの証拠として上がっていたこと。
毒物の運び屋の男が捕縛されており、ヒストリアとの面識を証言したこと。
それから、後になって繋がったフランドール邸での異変について。
父が道楽や女に入れ込み邸に戻らないことは度々あったが、一年ほど前から愛人となったウィラー夫人と共に別邸に引きこもり姿を見せなくなり、領地運営や人事の采配全てを義兄ロイドに任せ、後継人としての責務を放棄していたこと。
そしてヒストリニアに余計な情報を与えたメイドのアン。
「嵌められたのよ……多分、姉と義兄だわ」
「心当たりがあるんだな」
「……姉には嫌われていたし、義兄は今まで優しかったけれど、断罪の日に笑ってた……」
ヒストリアは断罪された日に見たロイドを思い出し、悪意がはっきりと込められた顔を脳裏に浮かべ忌々しげに眉根を寄せた。
「痛かったわ……聖印を焼かれて、無実を訴えたのに……おかしいでしょ、裁判すらなかったのよ……」
「………君の主張を誰も信じなかったと?」
そうだ。誰にも信じてもらえなかったのだ。胸の奥が引き裂かれるような思いでヒストリアは深く頷いた。涙が頬を伝い、瞼を深く瞼を閉じたあと、自嘲気味に吐息を零した。
「そういう風にしか見られない態度ばかりだったから、罰が当たったんだわ。違うって言っても証拠も捏造されていたし、私のせいだって決めつけられても仕方ないのよね……」
ヒストリアはもうずっと前から自覚していた。王都では嫌われ者だったと。
フランドールの邸の使用人達から扱い辛い令嬢と思われ、社交界でも遠巻きにされていた。大聖女と王太子の婚約者という立場故にあからさまなものはなかったが、ヒストリアの感情を逆撫でする事が起きて癇癪を起こすたびにエリザベートの株が上がっていた。
神殿すらヒストリアを持て余していた。
その状況を貴族達は固唾をのんで国がどう判断を下すか様子を窺っていたはずだ。
そして国は、ついに聖印があるだけの使い物にならない大聖女が過ちを犯したことで、お払い箱にする大義名分が出来た。
きっと姉達の思惑と国の事情が一致したのだ。
「……わたしは要らない大聖女だったから、皆に見捨てられた……」
被害妄想と思おうとした考えは、エリザベートが大聖女代理の地位を得たことで確信に変わり、予想以上に心を痛めつけてくる。
しかし、ヒストリアの決壊した感情をルーメンは遮った。
「それは違う。君を助けようとした人物がいたはずだ」
慰めでもなく、共感でもなく、荒唐無稽な言葉だった。
ヒストリアを助けようとした人間など王宮には居なかった。しかし淀みなくルーメンは否定した。
「どうしてそんなこと言えるの…?」
鼻を啜り視線を上げると真っすぐに注がれる視線とかち合った。
「君をあの家に運んだ日、部屋を見た。散乱していた木箱は比較的新しいものだった。なにか運び込まれていたんじゃないか。あれは……?」
「水や食料よ……王子の慈悲ですって……」
ヒストリアは口角を上げた。
それが一体何だというのか。