冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
しかしルーメンは冷静にヒストリアに言い聞かせるように告げる。
「罪人にそんな施しはあり得ない。生き延びるために用意されたものと考えていい」
「……あの人が、私を?――」
言葉が続かなかった。
「有罪を鵜呑みにして存在を消すというのなら、その場で抹殺する方が都合がいい。わざわざ聖印まで消して秘密裏に追放したのは見殺しにしなかった証拠だ。元婚約者だろう?」
「あの人は私から視線を逸らしていたわ……」
「だが君のことを誰よりも知っていたはずだ。そうでなければヒストリア……君は王城で秘密裏に処刑されていただろう」
「っ…………でも、そんなのあなたの思い込みでしょ……」

「確証はない。だが可能性は高い。ここは王弟ラキュウス辺境伯の統治下だ。瘴気にしか興味を示さない、君に全く関心のない者の土地に追放された意味は?」
そんなはずはないと、否定したいのに。
けれど、これまでルーメンから与えられてきた“優しさ”が、その考えを静かに揺らす。

ルーメンはヒストリアを見放さない。分かり難くて、しかしルーメンの言う事はいつだって正しかった。

「慰めはやめて……」
頭を振ったが、ルーメンは止めなかった。
「筋の通った可能性の話だ。君を信じようとした者がいた。そして、今は俺もいる。君には生きて貢献してもらいたい」
黄金色の瞳がヒストリアを捉えて離さず、そして頬を伝う涙を拭われる。

「聖力のコントロールが出来ないのに……?」
顔を歪め吐くように呟く。
胸中で渦巻く不安は無意識に言葉に変わっていた。

「貢献できるか分からないじゃない……最初に使い物にならないって私に言ったくせに、優しくしちゃって……もしこのままでもルーメンは私を傍に置いてくれるの?」
「ヒストリア……このままなんてことは有り得ない」
「そうじゃなくて!……っ、ちゃんと教えて。あなたの助手で居させてくれるの?……」
「君が望めば、だ」

短い答えは、ヒストリアを冷静にさせるような静かな温度を保っていた。

「君には価値がある。そう俺は言ったはずだ。君が毎晩努力しているように諦めないのなら、望み続けるのなら」
続けて渡される言葉は不思議にも激しく揺れていた感情をいともたやすく平たくさせてゆく。
「努力……あなたらしいわね」

ルーメンは手放しにヒストリアを受け入れたりはしないのだ。
砂糖菓子のように甘やかされることはないが、ふとした瞬間に気付かされる甘さ。
自分自身で起き上がれるまで傍で見守り、待ち続けてくれることの凄さを、もう理解できないヒストリアではなかった。

「人間関係なんて大なり小なり打算や見返りが混ざっているのが普通だ。それは悪いことか?」
ヒストリアは握りしめていたルーメンの片手を解き、口元を両手で庇うと長い息を吐きだした。
「いいえ。でも、ちっとも乙女心が分かってないわ……」
「そうかもしれないな。だが、根拠のない約束をするつもりはない」

ルーメンらしい、けれど信頼の出来る言葉だった。
「努力する人間には希望がある。今の君がそうだ」

ヒストリアは頷き、思い返した。
かつてベルナルド王子に努力の有無を問われたことがあった。あの時、ヒストリアは努力していると喚いていたが、この辺境にきて言葉の意味を理解できたような気がする。

「俺が君を助けた理由は、君にとっては勝手なものだっただろう。しかし今の君はここに馴染もうと努力している。他人が君をどう扱おうが俺の大切な助手だ……手放す理由がない」
「……っ」
ヒストリアは言葉を失った。
胸の奥がじんわりと温まってくるのが分かる。

「断言する。俺の研究が成功した時、君は世界を救う大聖女になる。印がなくとも、存在を消されようとも証明するんだヒストリア。ここにいる君が大聖女だと」

少し前まで激しく揺れていた意思は迷いを消した
「できるかしら……」
呟く言葉とは裏腹にもう不安もなかった。

「君は幸せになると言ったばかりだろう。見返すんじゃなかったのか?自分の価値は自分で決めろ。その上で俺を選べ」

生唾を飲み、小さく頷く。
ヒストリアは奥底に眠っていた望みを見つけたのだ。
「そう、よね……」

生きて幸せになるその先にあるもの。
ヒストリアは呼吸を整え視線を交わし宣言する。

「私……証明したい。生きて、大聖女だってーーあなたと証明してみせるわ!」
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