冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
浄化石を求めて
今日、結界を出て浄化石を手に入れる。
外は不安を鎮めるように空気が澄んでいた。
あの夜から一週間。興奮冷めやらぬヒストリアだったがいつもと同じ時間に起床し、仔猫の小さな身体を庇いながら眠った代償の痛みを享受し両腕を天井へ大きく伸ばしては、恒例の如く凝り固まった筋肉を解した。
そうしていつも通り顔を洗い、いつも通り窓を開け、いつも通りルーメンの家の扉を叩く。雑談を交えながら共に朝食を作って食べたあと、今日はいつもと違って採掘の手筈を確認しあっていた。
今日を迎えるまではあっという間だった。
即断即決のルーメンと一二を争うのでないかと感服するほどにベリルという男もまた話が早く、あっという間に人員を集めてしまったのだ。
あの夜から二日ほど降り続いた雨さえなければ、もっと早く出発の日を迎えていたことだろう。
そんななか、ヒストリアは一つ引っかかることがあった。
肝心のベリルへ依頼をする際に、何故かルーメンに同行させてもらえなかったのだ。
そのため実際に二人の間で具体的にどういったやり取りが交わされたか分からない。
しかし待ち合わせ場所でベリル達を待っている間にようやく聞き出した言葉は「大金を積んで了承を得た」というもので、それを聞いたヒストリアは一人どよめいていた。
「けっこうな額まで吊り上げられたが許容範囲内だ、問題ない」
「えぇ、そうね。ラキュウス辺境伯に払って頂くからよね。問題はそこじゃないのよ!」
「なんだ?」
「信頼が大事とか、あれは一体なんだったのよ……!?結局はお金!?お金なのね……これは名誉ある仕事でしょう?ねぇ大丈夫なの?私達の目的とか話してる?士気に関係するわよ!」
ベリルの人選だって、聞くところによると一日かかっていないと言うではないか。
あまりの展開の早さに、内心では適当に呼びかけて報酬目当ての寄せ集めになっているのではないか半信半疑だったのだ。
流石に命を張って結界の外に出るのだから、まさかそんなことはあり得ないだろうが、しかし二人の即決男達の手際に良さは考えさせられるものがある。
加えて当日になると心は揺れるもので、心積りはしていたつもりだったが、やはり実際に行くとなると緊張感から手足が固まる。
目的の違いから生まれる恐怖のせいだ。
今度は死にに行くのでない。生きて希望を掴むために、結界の外へ出るのだから。
先ほどルーメンを問い詰めるようになった台詞も、実は恐怖を拭うために出たようなところもある。
そんなヒストリアの言葉を聞き捨てならないとばかりに横から出てきたのはベリルだった。
「何をぐだぐだ言ってる。信頼の賜物だろうがよ」
高圧的な視線で見下ろされ失笑するベリルの姿にヒストリアは固く唇を引き結んだ。
ベリルはヒストリアの片腕ほどの剣を下げ、腰には装飾の異なる拳銃を二丁装備していた。
「俺たちだって大金が貰えりゃなんでも良いわけじゃねぇ。誰から頂戴するか、間違いなく支払われるのか、その金は真っ当なものなのか……ただ金額を提示されるだけじゃ、そいつが俺たちに敬意を払う人間かどうかは分からねぇ」
ベリルの背後には武装した姿が三人続いていた。今回、採掘の護衛の依頼を引き受けてくれた者達の姿だろう。
「つまり彼らは俺を信用に値する取引相手と判断したわけだ」
ルーメンは彼らに視線をやったのち淡々と告げる。
一方のベリルはヒストリアを小馬鹿にするかのような笑みを浮かべたのち釘を刺した。
「まぁ安心しな。仕事はきっちりしてやるぜ。俺が言いてぇのは信用がありゃ手放しで協力するなんて馬鹿な話はないって事だけだ。命に関わるなら報酬額もそれなりにいただく。お貴族サマが大好きな“名誉”ってのに、俺らは興味ないもんでな」
「……っ」
指先に熱が灯り羞恥からヒストリアは視線を逸らした。
先ほど士気に関わるのでないかとルーメンに投げかけた問いに対するもので、自身に染みついた価値観を明らかに馬鹿にしたような言い草だったからだ。
この地に追放されて以来、様々な学びを得て名誉や矜恃で明日を生きれるわけではないと分かっているが、しかしそれでも貴族にとって名誉はある意味で生きている証拠ともいえると未だに思う。
内心で渦巻く本音を主張すべきか、ヒストリアはここに来て戸惑う事ばかりだ。
自分を正しいと信じ、思い通りにならなければ相手に責任があると考えていたかつての自身とは異なり、言葉に詰まってしまう。
顔合わせもまともに始まっていない段階で不穏な空気は出したくない。けれどこの場に相応しい言葉は見つからない。
ーーーー非難するだけで良いのなら、なんて楽なのだろう。
すると流れを断ち切るように、足元に居た仔猫がいきなりベリルの胸に飛び込んだ。
ベリルが動じることはなかったが迷惑そうに顔を顰める。
一方のヒストリアは仔猫の行動に驚きを隠せなかった。
仔猫は基本的にヒストリアのそばを離れない。それだけでなく、ルーメンに対してはどんなに時間を共にしようと一定の警戒を示す。関わりの少ない相手なら尚更かと思ったが、あろうことか喉を鳴らして存在をアピールし甘えはじめていたのだ。
「懐いてる……」
ヒストリアは思わず呟いた。
「なんだ、こいつも連れて行くのか?言っとくが猫の安否まで保証は出来ねぇよ」
ベリルは舌打ちをはっきりと鳴らす。それから速やかに仔猫の首元を摘んで引き剥がすが、仔猫は降ろしたそばからまた駆け上がっていた。
その身に覚えのある仔猫の行動を思い出したヒストリアはおかしくなって唇を綻ばせていた。
ルーメンはというと、硬い表情を珍しく曇らせベリルを横目にため息をこぼす。
「ベリル、その猫はしつこいぞ」
「あぁ。うちのガキ共みたいだ……くっそ、離れやしねぇ」
器用に背中に回り込みベリルの手を逃れて肩に腰を据える。どうやら仔猫は居場所をそこに決めたらしい。
「置いて行きたかったのだけど、手強かったのよ……薬草を採りに森まで出た時にもついてくるぐらいだから。悪いけど連れて行ってちょうだい」
ヒストリアは咳払いしたあと眉尻を下げた。
ベリルは肩口の仔猫とヒストリアを交互に見遣ったのち短い吐息を零す。
「……いざとなりゃ囮にでも使うか」
「そ、それは駄目よ!私に投げてちょうだい。責任持って保護するわ」
「投げる?は、冗談だっつーの。あんたは自分の仕事に集中してくれよ。んじゃ、時間も惜しいんでこいつらを紹介するわ」
言ってベリルは後方の三人に目配せした。
「こいつはゼノ、元神殿の重騎士だ」
ベリルと変わらぬ体躯で重厚な鎧に身を包み分厚い盾と大剣を携えている男が一歩前に出た。
「守りは俺の専門職だから任せてくれ。一応ベリルとは一番付き合いが長い」
太い眉と茶色の短髪のゼノは柔らかな物腰を感じさせ、その声にヒストリアはほっとする。
「この女はニッカ。目がいい。銃の扱いに長けてるマニアだ」
シルドバーニュでは珍しい、エキゾチックな異国の血を感じさせるすらりとした高身長の女性で、重さを感じさせる長い銃を背負っていた。
癖のない真っ直ぐ落ちる茶色の長い髪と切れ長の一重が放つ鋭い視線はベリルと同類の威圧感を醸している。
「ベリルほどじゃぁないけどね。よろしく」
身体の芯から出るような、よく通る声でニッカが目を細めた。
「んで最後に、スレイ。この近辺の魔物に詳しい。索敵はこいつが一番だ。あと異常に運がいい」
長いまつ毛と大きな垂れ目が特徴の甘い顔立ちの男性で、大きな荷物を背負っており腰にも革製のポーチを下げていた。
成人男性の平均的な背丈で、スレイと呼ばれたその人物はこの中では一番身体が薄く中性的な雰囲気を持っている。
しかしスレイはいきなり目を吊り上げてベリルに怒声を浴びせるとその胸に指を突き付けた。
「はぁ?ベリルお前、ちがうだろ!」
「なんだ」
突然のことにヒストリアはびくりと肩を揺らす。
「軽い、軽すぎるんだよ。”運がいい”じゃなくて神に祝福されてる、だろ!違うだろ!訂正しろよ!」
突然激高したスレイに当惑するヒストリアを置いて、なぜかベリルを筆頭に周りは全く気にしていない。それどころか当のベリルに関しては更に煽るような物言いを放つ。
「気にするな。こいつは神を崇拝しながら魔物に魅了されてる破綻者だが役には立つぜ」
「破綻者ぁ?この美学が分からないなんて地獄に生きてるも同然だな!ご愁傷様!神と魔物を同時に愛せないお前の方が破綻者だね」
吐き捨てるように言ったスレイはその言葉を皮切りにベリルへ罵声を浴びせはじめた。かつてヒストリアが生きていた世界ではこんな人間は見たことがない。
ほどなくしてゼノがスレイを鎮めようとするが殆ど効果はなく、ベリルはうんざりと額を掻いたのちヒストリアを見遣る。
そしてため息交じりに零した。
「うるせ……聖女様を驚かせんじゃねぇ」
するとスレイの怒りは一瞬にして霧散し、唖然としていたヒストリアへと柔和な視線が向けられた。
「ごめんね〜、セシルちゃん。うるさかったよね?あいつがちゃんと分ってないからさぁ、俺が言っておいたよ。あ、そうだ。実は聖女様に同行出来るの楽しみにしてたんだ。本当にもう天啓だよね、これは。君のことは俺が守るから安心してね」
流暢に言葉を並べ立て、見た目の印象通りの人懐こい笑みを浮かべる姿は、先ほどまで怒りを露わにしていた姿とはとても似つかない。
「え、えぇ。よろしく……」
怒りで人が変わるとはいうが、あまりの豹変ぶりにスレイの人格に不安を覚えるヒストリアはぎこちなく微笑み返し短く頷いた。
「いいね。うん、絵に残したいなぁ……魔獣に寄り添う聖女とか、ありだね」
怪しげな発言と共に恍惚と零すスレイだったが、その直後にニッカにどつかれていた。また刺激しては怒りだすのではないかと気が気でないヒストリアだったがそれは杞憂に終わり、そこにはニッカから説教を受け縮こまるスレイの姿があった。
以上、総勢六名。これが今回の採掘メンバーである。
外は不安を鎮めるように空気が澄んでいた。
あの夜から一週間。興奮冷めやらぬヒストリアだったがいつもと同じ時間に起床し、仔猫の小さな身体を庇いながら眠った代償の痛みを享受し両腕を天井へ大きく伸ばしては、恒例の如く凝り固まった筋肉を解した。
そうしていつも通り顔を洗い、いつも通り窓を開け、いつも通りルーメンの家の扉を叩く。雑談を交えながら共に朝食を作って食べたあと、今日はいつもと違って採掘の手筈を確認しあっていた。
今日を迎えるまではあっという間だった。
即断即決のルーメンと一二を争うのでないかと感服するほどにベリルという男もまた話が早く、あっという間に人員を集めてしまったのだ。
あの夜から二日ほど降り続いた雨さえなければ、もっと早く出発の日を迎えていたことだろう。
そんななか、ヒストリアは一つ引っかかることがあった。
肝心のベリルへ依頼をする際に、何故かルーメンに同行させてもらえなかったのだ。
そのため実際に二人の間で具体的にどういったやり取りが交わされたか分からない。
しかし待ち合わせ場所でベリル達を待っている間にようやく聞き出した言葉は「大金を積んで了承を得た」というもので、それを聞いたヒストリアは一人どよめいていた。
「けっこうな額まで吊り上げられたが許容範囲内だ、問題ない」
「えぇ、そうね。ラキュウス辺境伯に払って頂くからよね。問題はそこじゃないのよ!」
「なんだ?」
「信頼が大事とか、あれは一体なんだったのよ……!?結局はお金!?お金なのね……これは名誉ある仕事でしょう?ねぇ大丈夫なの?私達の目的とか話してる?士気に関係するわよ!」
ベリルの人選だって、聞くところによると一日かかっていないと言うではないか。
あまりの展開の早さに、内心では適当に呼びかけて報酬目当ての寄せ集めになっているのではないか半信半疑だったのだ。
流石に命を張って結界の外に出るのだから、まさかそんなことはあり得ないだろうが、しかし二人の即決男達の手際に良さは考えさせられるものがある。
加えて当日になると心は揺れるもので、心積りはしていたつもりだったが、やはり実際に行くとなると緊張感から手足が固まる。
目的の違いから生まれる恐怖のせいだ。
今度は死にに行くのでない。生きて希望を掴むために、結界の外へ出るのだから。
先ほどルーメンを問い詰めるようになった台詞も、実は恐怖を拭うために出たようなところもある。
そんなヒストリアの言葉を聞き捨てならないとばかりに横から出てきたのはベリルだった。
「何をぐだぐだ言ってる。信頼の賜物だろうがよ」
高圧的な視線で見下ろされ失笑するベリルの姿にヒストリアは固く唇を引き結んだ。
ベリルはヒストリアの片腕ほどの剣を下げ、腰には装飾の異なる拳銃を二丁装備していた。
「俺たちだって大金が貰えりゃなんでも良いわけじゃねぇ。誰から頂戴するか、間違いなく支払われるのか、その金は真っ当なものなのか……ただ金額を提示されるだけじゃ、そいつが俺たちに敬意を払う人間かどうかは分からねぇ」
ベリルの背後には武装した姿が三人続いていた。今回、採掘の護衛の依頼を引き受けてくれた者達の姿だろう。
「つまり彼らは俺を信用に値する取引相手と判断したわけだ」
ルーメンは彼らに視線をやったのち淡々と告げる。
一方のベリルはヒストリアを小馬鹿にするかのような笑みを浮かべたのち釘を刺した。
「まぁ安心しな。仕事はきっちりしてやるぜ。俺が言いてぇのは信用がありゃ手放しで協力するなんて馬鹿な話はないって事だけだ。命に関わるなら報酬額もそれなりにいただく。お貴族サマが大好きな“名誉”ってのに、俺らは興味ないもんでな」
「……っ」
指先に熱が灯り羞恥からヒストリアは視線を逸らした。
先ほど士気に関わるのでないかとルーメンに投げかけた問いに対するもので、自身に染みついた価値観を明らかに馬鹿にしたような言い草だったからだ。
この地に追放されて以来、様々な学びを得て名誉や矜恃で明日を生きれるわけではないと分かっているが、しかしそれでも貴族にとって名誉はある意味で生きている証拠ともいえると未だに思う。
内心で渦巻く本音を主張すべきか、ヒストリアはここに来て戸惑う事ばかりだ。
自分を正しいと信じ、思い通りにならなければ相手に責任があると考えていたかつての自身とは異なり、言葉に詰まってしまう。
顔合わせもまともに始まっていない段階で不穏な空気は出したくない。けれどこの場に相応しい言葉は見つからない。
ーーーー非難するだけで良いのなら、なんて楽なのだろう。
すると流れを断ち切るように、足元に居た仔猫がいきなりベリルの胸に飛び込んだ。
ベリルが動じることはなかったが迷惑そうに顔を顰める。
一方のヒストリアは仔猫の行動に驚きを隠せなかった。
仔猫は基本的にヒストリアのそばを離れない。それだけでなく、ルーメンに対してはどんなに時間を共にしようと一定の警戒を示す。関わりの少ない相手なら尚更かと思ったが、あろうことか喉を鳴らして存在をアピールし甘えはじめていたのだ。
「懐いてる……」
ヒストリアは思わず呟いた。
「なんだ、こいつも連れて行くのか?言っとくが猫の安否まで保証は出来ねぇよ」
ベリルは舌打ちをはっきりと鳴らす。それから速やかに仔猫の首元を摘んで引き剥がすが、仔猫は降ろしたそばからまた駆け上がっていた。
その身に覚えのある仔猫の行動を思い出したヒストリアはおかしくなって唇を綻ばせていた。
ルーメンはというと、硬い表情を珍しく曇らせベリルを横目にため息をこぼす。
「ベリル、その猫はしつこいぞ」
「あぁ。うちのガキ共みたいだ……くっそ、離れやしねぇ」
器用に背中に回り込みベリルの手を逃れて肩に腰を据える。どうやら仔猫は居場所をそこに決めたらしい。
「置いて行きたかったのだけど、手強かったのよ……薬草を採りに森まで出た時にもついてくるぐらいだから。悪いけど連れて行ってちょうだい」
ヒストリアは咳払いしたあと眉尻を下げた。
ベリルは肩口の仔猫とヒストリアを交互に見遣ったのち短い吐息を零す。
「……いざとなりゃ囮にでも使うか」
「そ、それは駄目よ!私に投げてちょうだい。責任持って保護するわ」
「投げる?は、冗談だっつーの。あんたは自分の仕事に集中してくれよ。んじゃ、時間も惜しいんでこいつらを紹介するわ」
言ってベリルは後方の三人に目配せした。
「こいつはゼノ、元神殿の重騎士だ」
ベリルと変わらぬ体躯で重厚な鎧に身を包み分厚い盾と大剣を携えている男が一歩前に出た。
「守りは俺の専門職だから任せてくれ。一応ベリルとは一番付き合いが長い」
太い眉と茶色の短髪のゼノは柔らかな物腰を感じさせ、その声にヒストリアはほっとする。
「この女はニッカ。目がいい。銃の扱いに長けてるマニアだ」
シルドバーニュでは珍しい、エキゾチックな異国の血を感じさせるすらりとした高身長の女性で、重さを感じさせる長い銃を背負っていた。
癖のない真っ直ぐ落ちる茶色の長い髪と切れ長の一重が放つ鋭い視線はベリルと同類の威圧感を醸している。
「ベリルほどじゃぁないけどね。よろしく」
身体の芯から出るような、よく通る声でニッカが目を細めた。
「んで最後に、スレイ。この近辺の魔物に詳しい。索敵はこいつが一番だ。あと異常に運がいい」
長いまつ毛と大きな垂れ目が特徴の甘い顔立ちの男性で、大きな荷物を背負っており腰にも革製のポーチを下げていた。
成人男性の平均的な背丈で、スレイと呼ばれたその人物はこの中では一番身体が薄く中性的な雰囲気を持っている。
しかしスレイはいきなり目を吊り上げてベリルに怒声を浴びせるとその胸に指を突き付けた。
「はぁ?ベリルお前、ちがうだろ!」
「なんだ」
突然のことにヒストリアはびくりと肩を揺らす。
「軽い、軽すぎるんだよ。”運がいい”じゃなくて神に祝福されてる、だろ!違うだろ!訂正しろよ!」
突然激高したスレイに当惑するヒストリアを置いて、なぜかベリルを筆頭に周りは全く気にしていない。それどころか当のベリルに関しては更に煽るような物言いを放つ。
「気にするな。こいつは神を崇拝しながら魔物に魅了されてる破綻者だが役には立つぜ」
「破綻者ぁ?この美学が分からないなんて地獄に生きてるも同然だな!ご愁傷様!神と魔物を同時に愛せないお前の方が破綻者だね」
吐き捨てるように言ったスレイはその言葉を皮切りにベリルへ罵声を浴びせはじめた。かつてヒストリアが生きていた世界ではこんな人間は見たことがない。
ほどなくしてゼノがスレイを鎮めようとするが殆ど効果はなく、ベリルはうんざりと額を掻いたのちヒストリアを見遣る。
そしてため息交じりに零した。
「うるせ……聖女様を驚かせんじゃねぇ」
するとスレイの怒りは一瞬にして霧散し、唖然としていたヒストリアへと柔和な視線が向けられた。
「ごめんね〜、セシルちゃん。うるさかったよね?あいつがちゃんと分ってないからさぁ、俺が言っておいたよ。あ、そうだ。実は聖女様に同行出来るの楽しみにしてたんだ。本当にもう天啓だよね、これは。君のことは俺が守るから安心してね」
流暢に言葉を並べ立て、見た目の印象通りの人懐こい笑みを浮かべる姿は、先ほどまで怒りを露わにしていた姿とはとても似つかない。
「え、えぇ。よろしく……」
怒りで人が変わるとはいうが、あまりの豹変ぶりにスレイの人格に不安を覚えるヒストリアはぎこちなく微笑み返し短く頷いた。
「いいね。うん、絵に残したいなぁ……魔獣に寄り添う聖女とか、ありだね」
怪しげな発言と共に恍惚と零すスレイだったが、その直後にニッカにどつかれていた。また刺激しては怒りだすのではないかと気が気でないヒストリアだったがそれは杞憂に終わり、そこにはニッカから説教を受け縮こまるスレイの姿があった。
以上、総勢六名。これが今回の採掘メンバーである。