冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

VS刺客と蜘蛛の糸

ヒストリアは双子と共に走っていた。
谷に向けてレールを伸ばしつつあるトロッコの起点に向けて。

「大丈夫かな……」
「ベリル怪我してないかなっ……」

双子は片腕を失って戻ってきたベリルがまた怪我を負うのでないか気が気でない様子で口走る。

二人はヒストリアが家に留まるよう宥めたが言うことをきかず着いてきてしまっていたのだ。

「あの爆音はけっこう近かったわ。ベリルならもう通り過ぎてるはず……きっと大丈夫よ」

ルーメンも、他の雇人の人間もきっと。
音の大きさからして採掘現場ではない。

それだけは分かっていたが、ベリルに関しては絶対にと言いきれる自身はない。

しばらく前に出ているため、おそらくは巻き込まれてはいないだろうとヒストリアは走りながら双子を励ましていたが、実際に現場を見るまでは不安は拭えなかった。


どうか、どうか誰も怪我をしていませんように。
そう願い、音がした場所に向けて走る。


だが突然、目指す場所が近づくに連れて不穏な雰囲気を感じ躊躇する感情が渦巻いた。
嫌な予感がする。

咄嗟に出てきてしまったが、やはり双子は置いてくるべきだったかもしれない。

いや、それ以前に来るべきでなかったかもしれない。
ヒストリアは完全に走るのを止めて立ち止まった。

「セシル?どうしたの?」
「早く行こうよ!セシルお姉ちゃん!」

二人が振り返り、幼い声がヒストリアの偽名を呼ぶ。

「やっぱり、戻りましょう……」

「なんで?」
「なにか変なのよ……」

「変ってなにが?」
「考えてみれば音がした場所には、爆発するようなものなんて何もないはずだもの……」

冷静に考えればそうなのだ。

かつて地面が隆起し背丈ほどの大きな岩がいくつも転がっている場所で、あそこには浄化後の劇的な変化といえば緑地が増えたことと、やや大きな蜘蛛の生息地帯になったことぐらいだ。

蚕の繭のようにその蜘蛛の糸は乾燥させると繊維としても利用できるらしいが、レールを敷くのには厄介な存在であるとベリルが苦言を漏らしていたのを覚えている。

まだ谷底付近までは完全に開通してないため常に人がいるわけでもなく、瘴石の採掘とレールを敷く作業を並行して行っており、一日の最後に瘴石を運ぶ手筈となっている。

そのため普段はレールを敷く最前線の位置にトロッコが止まっていた。
結界の中なので銃火器なども基本的に所持しておらず、この時間帯ならみな採掘現場の方にいる。

採れた瘴石はルーメンの家の近くに増設した保管倉庫に集めているので、周囲には本当になにもないのだ。

つまりあの場所に爆音が聞こえるのはおかしい。音を気にして見にくる人間を誰かが待っているのではないか。
レールの起点を目前に、ヒストリアは唇を噛み締める。


「ヒストリア・フランドールで間違いないな?」


低いがよく通る声が響く。

またやってしまった。
違和感にようやく気づいた時には手遅れで、ロマとティア達を挟むように二人の男がいた。

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