冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――あれからエリザベートは夜が明けぬうちに家令のリュートスを連れてフランドール邸を出て行った。
リュートスは老齢だが五感が鋭く腕が立ち方々に顔が効く。
ロイドは悩んだが放置することにした。
あの男を連れて行ったエリザベートをわざわざ殺すのは手間がかかる。
貴族の間で話題の渦中にあるだろうフランドール家に、エリザベートのことで注目を集めるのは得策ではない。
ロイドは王太子であるベルナルドの城下視察を狙って、雇った暗殺者を使いユリアンと王太子を入れ替えることを計画した。
しかし入れ替えは成功したが、致命傷を負わせたものの逃げられたという報告が上がる。
「役立たずめ」
ロイドはその暗殺者を射殺したが苛立ちが晴れることはなかった。
崖から落ちたという偽装のためユリアンに身投げした風を装わせたが、肝心の遺体がなくてはどうにもならない。
『行方不明』という生死不明のままだが、ロイドは立ち止まることなど出来ないと考えていた。
死体を見つけるか、生きているなら始末して決着をつけるか、それを待っていては破滅する。
同時に王家を乗っ取るしかない。
――そんな焦燥感を抱いていた頃、あの魔法使いの男は再び現れた。
「私が手を貸してやろう……真名は教えてやれんがな」
狡猾に笑うその男はどこからともなくロイドの元へやってきて、状況を知っている風に告げる。
「信用出来ない」
「そうか。では気が向いたら泣きつきにくるといい」
ロイドが邪険にすると男は煙にように姿を消した。
その後、ヒストリアの見張りをさせていた者から報告が届く。
ヒストリアを助けたのは不思議な力を持つ、おそらく魔法使いだという話だった。
傍に侍らせていたユリアンは、報告で挙げられる名に珍しく動揺していた。
捕まえてから怯えた顔しかしていなかった少女が珍しく、違った感情を見せた瞬間だった。
ロイドは閃き、ユリアンに命令した。
「知っているだろ……ユリアン、ルーメンがどんな力を持っているかお前の知っていることを全て話せ」
ユリアンに視線を合わせ訊ねれば、虚ろな瞳が瞬きを忘れ感情のない声が記憶を吐き出させる。
「……拡張と縮小、それに隠匿された元王族か……欲しいな。だがヒストリアを守っているとは厄介だ」
ヒストリアが辺境で生きていること以上に、ロイドは魔法使いが関わっていることに脅威を覚えたが、この時はまだ余裕があった。
完全に歯車が噛み合わなくなったのは、それから国王を暗殺し、ユリアンに擬態させた後のことだ。
あとは国王に擬態したユリアンにシェリル王女との婚約を進めさせればひと段落がつく。
ヒストリアは暗殺者に見張らせている。
ルーメンの居ないタイミングを見計らい後で始末すればいい。
大丈夫だ。問題ない。
そう信じようとした。
「――ユリアンに逃げられた……最悪だっ!!」
激しい雨の日だった。
洗脳の条件を変えるたびに解除しなければならないため、他の人間に擬態させるためユリアンの洗脳を解除した際に裏切り者が出たのだ。
助け出されたユリアンは何かを持って逃げ出し、雨の中を追って叫んだが、ロイドは神殿紋章が入った騎士らに囲まれた。
「エリザベートか……」
王家の簒奪を嫌がっていた姿が目に浮かぶ。
どうせあの女はなにもしない。
どこかでそう思い込んでいた。
その慢心が窮地を作ったのだ。
激しい苛立ちと挫折にロイドの思考は停止したが、そこへ突如として知った声が響く。
「こんな問題は些細なことだ。ロイド、立ち止まる必要はない」
またあの魔法使いだった。
その男は騎士らに手を翳し、光が包む。
すると次々に発狂し、空虚を見つめ何かを恐れ震え、いくつもの鎧が頭を垂れた。
「――私なら擬態どころか幻覚を作り出すことが出来る。あの小娘よりも役に立つぞ」
リュートスは老齢だが五感が鋭く腕が立ち方々に顔が効く。
ロイドは悩んだが放置することにした。
あの男を連れて行ったエリザベートをわざわざ殺すのは手間がかかる。
貴族の間で話題の渦中にあるだろうフランドール家に、エリザベートのことで注目を集めるのは得策ではない。
ロイドは王太子であるベルナルドの城下視察を狙って、雇った暗殺者を使いユリアンと王太子を入れ替えることを計画した。
しかし入れ替えは成功したが、致命傷を負わせたものの逃げられたという報告が上がる。
「役立たずめ」
ロイドはその暗殺者を射殺したが苛立ちが晴れることはなかった。
崖から落ちたという偽装のためユリアンに身投げした風を装わせたが、肝心の遺体がなくてはどうにもならない。
『行方不明』という生死不明のままだが、ロイドは立ち止まることなど出来ないと考えていた。
死体を見つけるか、生きているなら始末して決着をつけるか、それを待っていては破滅する。
同時に王家を乗っ取るしかない。
――そんな焦燥感を抱いていた頃、あの魔法使いの男は再び現れた。
「私が手を貸してやろう……真名は教えてやれんがな」
狡猾に笑うその男はどこからともなくロイドの元へやってきて、状況を知っている風に告げる。
「信用出来ない」
「そうか。では気が向いたら泣きつきにくるといい」
ロイドが邪険にすると男は煙にように姿を消した。
その後、ヒストリアの見張りをさせていた者から報告が届く。
ヒストリアを助けたのは不思議な力を持つ、おそらく魔法使いだという話だった。
傍に侍らせていたユリアンは、報告で挙げられる名に珍しく動揺していた。
捕まえてから怯えた顔しかしていなかった少女が珍しく、違った感情を見せた瞬間だった。
ロイドは閃き、ユリアンに命令した。
「知っているだろ……ユリアン、ルーメンがどんな力を持っているかお前の知っていることを全て話せ」
ユリアンに視線を合わせ訊ねれば、虚ろな瞳が瞬きを忘れ感情のない声が記憶を吐き出させる。
「……拡張と縮小、それに隠匿された元王族か……欲しいな。だがヒストリアを守っているとは厄介だ」
ヒストリアが辺境で生きていること以上に、ロイドは魔法使いが関わっていることに脅威を覚えたが、この時はまだ余裕があった。
完全に歯車が噛み合わなくなったのは、それから国王を暗殺し、ユリアンに擬態させた後のことだ。
あとは国王に擬態したユリアンにシェリル王女との婚約を進めさせればひと段落がつく。
ヒストリアは暗殺者に見張らせている。
ルーメンの居ないタイミングを見計らい後で始末すればいい。
大丈夫だ。問題ない。
そう信じようとした。
「――ユリアンに逃げられた……最悪だっ!!」
激しい雨の日だった。
洗脳の条件を変えるたびに解除しなければならないため、他の人間に擬態させるためユリアンの洗脳を解除した際に裏切り者が出たのだ。
助け出されたユリアンは何かを持って逃げ出し、雨の中を追って叫んだが、ロイドは神殿紋章が入った騎士らに囲まれた。
「エリザベートか……」
王家の簒奪を嫌がっていた姿が目に浮かぶ。
どうせあの女はなにもしない。
どこかでそう思い込んでいた。
その慢心が窮地を作ったのだ。
激しい苛立ちと挫折にロイドの思考は停止したが、そこへ突如として知った声が響く。
「こんな問題は些細なことだ。ロイド、立ち止まる必要はない」
またあの魔法使いだった。
その男は騎士らに手を翳し、光が包む。
すると次々に発狂し、空虚を見つめ何かを恐れ震え、いくつもの鎧が頭を垂れた。
「――私なら擬態どころか幻覚を作り出すことが出来る。あの小娘よりも役に立つぞ」