冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――話し合いの末、この地に結界を張っている浄化石をベリル達に託し、ヒストリア達はラキュウス辺境伯の元を経由して王都へ向かうこととなった。
結婚を急いでいるであろうロイドを止めるために。
「ルーメン。ここを出る前にベリルと二人きりで話したいことがあるの」
翌日、事情を伝えベリルに浄化石を預けていたルーメンにヒストリアは声をかけた。
ルーメンは短く「わかった」とだけ応えると、スレイ達に向き直りユリアンを紹介し始めた。
「熱いお誘いだな」
ヒストリアは少し離れた馬小屋まで無言で歩いたあと、梁の高い天井を仰いだのちベリルへ視線を戻す。
「あなたのことを思い出したの。私の父を撃った男の子供よね」
昔、父を撃った背丈の高い男。
裁判所でベリルの名を呼び泣き崩れる姉。
エリザベートに目もくれず尖った視線をガストに向けていた子供。
蘇る記憶の断片を手繰り寄せれば、その面影が見えた。
ただの同じ名前だと聞き覚えのある響きを無視していたが、流れ者が居着くというこの場所に、ベリル本人が居てもおかしくはない。
「へぇ。よく分かったな」
ベリルは前髪を掻き上げては感心したように言った。
「あなたは?いつから気付いたの?」
「そうだな。珍しい銀髪にエリザベートを思い出した。聖女と聞いてフランドール家の可能性が浮かんだ……決め手は浄化石だ」
あっさりと答える様子に疑念の眼差しを返せば、ベリルからは小馬鹿にしたように吐き捨てる。
「なぜ隠してたの?」
「隠す?お前と俺はただの他人だ……親父も俺達も罪は償った。それ以上に何もねぇだろ」
尤もだった。直接関わったわけでない。
しかしヒストリアの父は被害者であり、そして今にして考えてみれば加害者でもあったのだろうと捉えられる。
「私達が求めたのは過剰な制裁だったと思うわ……姉は酷く取り乱してた」
喉元まで出かかった謝罪の言葉を飲み込んで、ヒストリアは慎重に言葉を選ぶ。
蔑むような視線が一度だけヒストリアを貫き、歪にベリルの口元が歪んだ。
「そうかよ。で、わざわざ懺悔しにきたか」
後ろめたさ覚えた事を見透かしたような言葉に二人の間には沈黙が落ちた。
分かっている。今更蒸し返す話でない事は。
ベリルにとってあの出来事はもう過去なのだ。
ヒストリアは長い息を吐いた。
それからベリルに向き直った。
「……懺悔しに来たわけじゃないわ。教えて欲しいの。エリザベートのこと」
今まで向き合おうとしなかった幼い日のエリザベートの心の奥をベリルならば知っているはずなのだ。
父にベリル一家への制裁の訴えを取り下げるよう慈悲を乞う姿を何度も見た。
「姉が感情的になったのは、あなた達に対してだけだったわ。私よりあなたの方が姉を知っているはずよ」
結婚を急いでいるであろうロイドを止めるために。
「ルーメン。ここを出る前にベリルと二人きりで話したいことがあるの」
翌日、事情を伝えベリルに浄化石を預けていたルーメンにヒストリアは声をかけた。
ルーメンは短く「わかった」とだけ応えると、スレイ達に向き直りユリアンを紹介し始めた。
「熱いお誘いだな」
ヒストリアは少し離れた馬小屋まで無言で歩いたあと、梁の高い天井を仰いだのちベリルへ視線を戻す。
「あなたのことを思い出したの。私の父を撃った男の子供よね」
昔、父を撃った背丈の高い男。
裁判所でベリルの名を呼び泣き崩れる姉。
エリザベートに目もくれず尖った視線をガストに向けていた子供。
蘇る記憶の断片を手繰り寄せれば、その面影が見えた。
ただの同じ名前だと聞き覚えのある響きを無視していたが、流れ者が居着くというこの場所に、ベリル本人が居てもおかしくはない。
「へぇ。よく分かったな」
ベリルは前髪を掻き上げては感心したように言った。
「あなたは?いつから気付いたの?」
「そうだな。珍しい銀髪にエリザベートを思い出した。聖女と聞いてフランドール家の可能性が浮かんだ……決め手は浄化石だ」
あっさりと答える様子に疑念の眼差しを返せば、ベリルからは小馬鹿にしたように吐き捨てる。
「なぜ隠してたの?」
「隠す?お前と俺はただの他人だ……親父も俺達も罪は償った。それ以上に何もねぇだろ」
尤もだった。直接関わったわけでない。
しかしヒストリアの父は被害者であり、そして今にして考えてみれば加害者でもあったのだろうと捉えられる。
「私達が求めたのは過剰な制裁だったと思うわ……姉は酷く取り乱してた」
喉元まで出かかった謝罪の言葉を飲み込んで、ヒストリアは慎重に言葉を選ぶ。
蔑むような視線が一度だけヒストリアを貫き、歪にベリルの口元が歪んだ。
「そうかよ。で、わざわざ懺悔しにきたか」
後ろめたさ覚えた事を見透かしたような言葉に二人の間には沈黙が落ちた。
分かっている。今更蒸し返す話でない事は。
ベリルにとってあの出来事はもう過去なのだ。
ヒストリアは長い息を吐いた。
それからベリルに向き直った。
「……懺悔しに来たわけじゃないわ。教えて欲しいの。エリザベートのこと」
今まで向き合おうとしなかった幼い日のエリザベートの心の奥をベリルならば知っているはずなのだ。
父にベリル一家への制裁の訴えを取り下げるよう慈悲を乞う姿を何度も見た。
「姉が感情的になったのは、あなた達に対してだけだったわ。私よりあなたの方が姉を知っているはずよ」