冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

姉の轍と金の卵

つばの長い日避けの帽子を被り、湖の畔で小石を投げているエリザベートを見つけた。

放り投げた石は三度ほど水面を弾いたあと、やがて沈んでいく。
しかしエリザベートは石の行方を追うようにぼんやりと見つめたまま微動だにしない。

まるでそこだけ時が止まっているようだった。

「――エリィ、裾が汚れるぜ」

雨上がりで水捌けの悪い土は少しぬかるんでおり、ベリルが大きな声で言うと、細い肩がびくりと揺れた。

白い帽子に淡い水色の裾の長いワンピースドレス。
エリザベートはいつも場に似つかわしくない格好をしている。

それは家令のリュートスという爺さんと仕事で出ている体にしているからだが、そのくせ本人は足元が汚れることをあまり気にしていない節がある。

ベリルがエリザベートに駆け寄ろうとすれば、後から追いかけてきていた父のジルに後頭部を軽く叩かれた。

「エリザベートお嬢様!だ!失礼な態度を止めろっ」
「びっ、くりしたぁ……いーだろ、別に誰か見てるわけじゃねーし」

口を尖らせ、じとりと父を見遣ったあと振り返ると、こちらを見つめるエリザベートは口許に笑みを浮かべていた。

――ほらな、彼奴は怒ってない。
少し離れ場所に佇むリュートスだって顔色一つ変えていないのだから良いのだ。

「すみませんね、エリザベートお嬢様。いっつもうちの愚息が」

父はエリザベートに向かって大声で謝るとペコペコと浅い会釈をしては肘でベリルの身体をどついてくる。

「ったく口の利き方を直せつったろうが!フランドール侯爵家の当主になる方に失礼だぞ」

口の利き方が荒っぽいのは親譲りだから仕方ないとは思わないのだろうか。

「良いのよ。ベリルは友人だもの。そろそろジルにも同じように呼んで欲しいものだわ」

エリザベートは顔を綻ばせ、生気を宿した瞳は宝石のように輝いていた。

フランドール侯爵家は社交シーズンが終わると必ずエール地区にやってくる。
名目上は視察だが、主要箇所を数カ所回るだけで滞在の殆どを彼らは別荘地で過ごしていた。

二人が初めて会ったのは、エリザベートが靴擦れを起こしているのを見つけ介抱した時のことだ。

その時は今のようなドレスでなく町娘のような恰好で一人だった。
侯爵家の令嬢とは知らず家に連れ帰り血が出ていた足首洗い、軟膏にも使われる野生の植物の液を塗ってやり、布を当て手当し別れた。

なんとなくもう会うこともないだろうと思っていたが、その翌年に再会することとなった。

フランドール家の別荘に近い父の養鶏場は彼らが滞在する期間に卵や鶏を収めており、ベリルが遣いが出来る歳になって御用聞も兼ねコックに会いに行くと、そこにエリザベートがいたのだ。

背中に定規でも入っているのじゃないかと疑うほどに真っ直ぐ伸びた品のある佇まいは、怪我をしていた時と比べやけに大人びて見えたものだ。

あの時、エリザベートは肉も卵も味がよいと父の養鶏場を褒めたあと見学がしたいと言った。
どうせ口だけだろうと思い、軽く了承して帰ったが、後日本当に父の元に見学の打診があった。

それからリュートスを伴ってエリザベートが訪れたのだが、案内役を依頼され、そして意外にも話が弾んだのだ。

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