忘れられない映画[1話]
そういえば、去年の文化祭で上映した短編映画はホラーとまではいかないけれどその類で、身近で起きた不思議な出来事をテーマにした作品だった。
学校が舞台だったから、撮影に使われた空き教室や音楽室を通るたびに映像が過ぎって半年くらいは怖かったのを覚えている。
今年はどんな作品が上映されるんだろう。
「ねえ」
何も仕事が回ってこないといいな、なんて思いながら廊下を歩く。
「楠木さん」
だって作る側には興味ないもん。
なんてったって私は“見る専”部員なんだから。
「楠木さん」
唐突にリュックを引っ張られ、思わず小さく声がもれた。
「わっ…」
後ろによろけそうになったけれど、掴まれていたままだったおかげて倒れずに済んだ。
そして、ようやく名前を呼ばれていた事に気付く。
「…え?呼んでた?」
「呼んでた。何回か」
やや不機嫌そうにそう答えたのは柊 蒼一郎。
同じく映像研究部の2年生。
クラスも同じだけど、話したことはほぼ無い。
でも彼がどんな生徒かは、なんとなく説明できる。
たくさんの友達に囲まれるタイプではなく、限られた友達が数人。
休み時間は本を読んでいるか、スマホの画面をジッと見ている。
たまにタブレットを持ってきて何かの作業をしていたりして話しかける隙は一切ない。
少しクセのある髪は無造作だけど、制服はきちんと着ていて肌もキレイだから、不思議とだらし無く見えない。
近寄り難いけど変にチャラついてないから隠れファンが多いのも頷ける。
それに、とっておきの情報がもうひとつ。
柊 保
日本が誇る映画監督。
手がけた作品は名だたる賞を次々と受賞。
数多くの俳優が彼の作品をきっかけにスターダムへと駆け上がった。
時代を代表する超有名監督。
その孫が、目の前に立っている柊蒼一郎だ。
知っているけど、口には出さない。
それはおじいさんの情報であって、彼自身の情報ではないから。